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コーギーがいた家①
実家にはコーギーがいた。
死んじゃってもう20年くらいになっちゃうけど。12歳まで生きたから、我が家に来たのは35年前くらいになるのかな。
当時は「コーギー」なんて全然メジャーな犬じゃなくて。
近所では雑種の野良犬がウロウロしているような時代だった。
オスだった彼は「トム」って名前で。私が中学3年のときに母がいきなり買ってきた。
その日、部活も引退したのにジャージ姿のまま帰宅した私は、受験勉強なんてする気も無くリビングのソファでゴロゴロしていた。
すると、車で出掛けていた母が、帰ってくるなり玄関先から私の名を呼んでくる。くつろいでるのになんやねんと思いながら玄関へ行くと、いきなり犬がおった。予告なしワンコ。
「え?え?なんで?誰の?誰の犬?」
「いや、飼おうかと思って♪」
「え?なんで?」
「顔が茶色くて可愛いでしょ?」
見ると、脚が短くて不思議なワンコは確かに顔が茶色かった。お腹は白く、背中は黒い。でも、なんか変。色とかじゃなくて、なんか変。
「…あれ?シッポ無いじゃん!」
「そう。ウンチするとき汚れなくていいでしょ?」
ワンコは「コーギー」だった。当時は全然メジャーじゃなかったコーギー。ワンコのトレードマーク的なシッポが無い犬だった。なんとなく違和感。
「えー!?でも、犬って、飼い主が帰ってきたときとか、シッポ振ってんのが可愛いんじゃないの?」
犬なんか飼ったことないクセに、あたいは言う。
だって有名じゃん?!シッポ振るのって。警戒しまくってたワンコが懐く時にシッポをブンブン振んのがさぁ!有名じゃん!!(藤子不二雄マンガの読み過ぎ)
すると、母は
「あれー?失敗しちゃった?じゃぁ、返してこようか?」
と、のたもうた。
「えぇっ!そんな、可哀想じゃん。いいよ、飼おうよ。」
と、私は言い、彼はめでたく我が家の一員となった。
私はそれまで、捨てられている犬や飼い主のいない犬を拾って帰ってくるような子どもだった。そう、正にのび太だ。(藤子不二雄マンガの読み過ぎ)
その度に、母は
「捨ててきなさい!!!」
と、すごい剣幕で怒った。母もまるでのび太のママ。私は渋々、捨て犬を元いた場所に戻したり、友人に押し付けたりしていた。
なのに、どういう風の吹き回し?
そんな母は若い頃、実家で雑種の犬を飼っていたらしい。「タロウ」という名だったらしい彼は20歳まで生きた、と母は言ってたけど…ほんまかどうか怪しい。
「部屋に入れたり人間と同じ物食べさせたりしてたから、早死にした。」
なんて言ってて、20年のどこが早死やねんと思ってた。いや。声に出して母にツッコんだような気もする。
そんな母が、唐突に犬を買ってきた理由はもはや謎だ。
「育ち過ぎて、来月には処分されちゃうとこだったから安かったんだよ!」
とも言ってた。
たまたま入ったペットショップに彼がいたのか、ずっと目を付けていたのかも謎である。まぁ、前者な気がするがねぇ。母の引きの強さよ。
そんなわけで、いきなり犬のいる暮らしになった私。
名前は父が付けた。
しかし、父がワンコに会う前に
「好きな名前考えてね。」
と、母は私に言ってくれたので、
「えっ?!私が考えていいの?!!♪」
と、ウキウキになっていた。
5個くらい候補を考えて、ノートに書き出し、どれにしようか迷い、勝手に「これだ!」と、なっていた。なっていたのに。
忘れもしない。そう、私が決めたその名は
「ミッキー」。(ださっ)
なんでかな?まだディズニーランドも新しい時代だったからかな。
いや、もしかすると「ミッキー=ローク」から取ったのかもしれん。(知らんやろが。)
夜になって帰ってきた父に
「ミッキーでいい?」
って聞いたら、まじまじとワンコの顔を見て
「トムだな。この顔はトムだ!」
と、断言された。
嘘やろ。
母の顔を見たら
「お父さんがそう言うんじゃ、しょうがないね〜。」
ってニコニコして言う。おいおい、なんやその従順な態度。父に弱みでも握られとったんか。それとも「ミッキー」が実はすこぶる嫌やったんか。
味方が一気にいなくなった私が考えた名前は、考えてた事すら無かった事にされ、ワンコの名前は「トム」になった。
今思うと、確かに「ミッキー」って顔じゃないよ。彼は「トム」だったよね。
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