乃木坂46「今、話したい誰かがいる」を振り返る

先日発売された26thシングルのクオリティの低さに(勝手ながら)未だ納得がいっていないです。
乃木坂46で私が一番好きな楽曲である13thシングル表題曲「今、話したい誰かがいる」について振り返ろうと思います。
(完全に某CMの影響です。笑)
目的は自分の好きな乃木坂とは一体何なのかを探るためです。
この曲はたまたま鑑賞した映画『心が叫びたがってるんだ。』の最後に流れたことで知り、フルで聴いた初めての乃木坂の楽曲でした。
盛んに乃木坂を聴くようになったのは2019年とかなり最近ですが、それまでも時にこの曲のサビのメロディが頭を駆け巡ることがあり、今でもかなり高頻度で聴いています。

最強の選抜メンバー

『今、話したい誰かがいる』の特筆すべき点は初のダブルセンター表題曲であることと、選抜メンバーが1期生のみで構成されることでしょう。
乃木坂46を代表する白石麻衣さんと西野七瀬さんが真ん中にいることはもちろん、他のメンバーも全員が卒業までにどこかで福神(しかも伊藤万里華さん、若月さん、井上さん以外はフロント)を経験することになるという振り返れば大変豪華な編成となっています。
これが実現したのは現段階(26th)で今作と、2期生の堀さんを追加した次作『ハルジオンが咲く頃』のみです。どのメンバーも多少の差はあるもののキャラが立っており層の厚さが伝わってきます。
一方でこの楽曲の唯一悪い点として「1期生こそ真の乃木坂で最強」という強烈な印象を残してしまったことが挙げられます。

3度楽しめる希有な楽曲

「今、話したい誰かがいる」はアニメ映画『心が叫びたがってるんだ。』の主題歌であり、秋元康さんも当作品の内容を踏まえて作詞をしています。
しかしこの楽曲の素晴らしさはタイアップ先の映画の知識がなくても成り立つことです。
曲はAkira SunsetさんとAPAZZIさんという(今では)坂道系ではお馴染みの面々。ピアノの旋律を筆頭に乃木坂楽曲の真骨頂である聴き心地の良い音作りがしっかりと成されています。楽器がうるさすぎないのが好きです。
歌詞は映画で描かれる青春ドラマを意識した若者特有の心情を親しみやすく描いています。そして小道具「シーソー」「リンゴ」「一本のコーラ」の配置のさりげなさが巧みで、楽曲の世界に唯一無二の彩りを与えています。
またMVは映画をなぞりながらも独自のストーリーで、実質的な主役の西野さんが光っています。彼女を知らない人でも虜になるはずです。障害者と一緒に頑張るという若干ベタな構図ではあるものの監督の手腕に脱帽です。劇中に取るコミュニケーションがそのままダンスの振り付けに繋がっている点は見事であり、唐突なダンスシーンの挿入で映像の世界観が邪魔されるというアイドルポップスの弱点を克服しています。
楽曲単体、映画のED、そしてMVと楽しみ方が3種類提供されどれもこじつけ感がなく大変味わい深い体験です。

乃木坂楽曲の最高到達点

乃木坂の人気獲得の秘訣はアイドルを演じるメンバーの魅力を個人PV、MV、バラエティで掘り下げ人間味のあるエモいコンテンツを提供し続けたことにあると思います。
「今、話したい誰かがいる」はこのような乃木坂的なエッセンスを全て高純度で兼ね備えておりどれも互いに足を引っ張ることもない上に映画という外部の物語の歌としても成り立つので個人的に乃木坂の楽曲の最高到達点だと思っています。
対抗馬としてグループの転換点となった5th『君の名は希望』が真っ先に挙げられます。こちらもメロディはもちろん、初代センター生駒里奈さんに当て書きされながらも様々な解釈が可能な歌詞が大変に素晴らしいですが、あくまで生駒里奈さんの存在ありきの曲で聴き手の負担が少し大きいためやはり『今、話したい誰かがいる』に軍配が挙がると考えました。

もう一度

これは完全に私の主観ですが14th以降の表題曲は卒業などの話題性ありきのものばかりで13thまでに築き上げてきた乃木坂ブランドという貯金を食いつぶしている気がします。表題曲以外でも悪くいえば乃木坂という限定された世界に没頭できた人にのみありがたみが分かる、乃木坂楽曲という肩書きが外れたら独り立ちできない曲を今日まで量産し続けています。よく「乃木坂46は人気が高いグループなのになぜか誰もが歌える楽曲がない」とファンが嘆いていますが、その大きな要因はまさに作り手が「限定された世界」の住人以外への親和性が低いシステムに甘えていることだと思います。
運命は皮肉なもので『今、話したい誰かがいる』の次作『ハルジオンが咲く頃』を最後に深川麻衣さんが卒業し、以降はおよそ一作おきのペースで主力メンバーの誰かがグループを去ることになり日を追う毎に聴くと懐かしさが増す楽曲となってしまいました。
3期生や4期生がグループの主力になりつつありますが、先輩メンバーの流出にパンデミックも重なってこれからが(乃木坂だけではありませんが)正念場といったところです。
もし再び『今、話したい誰かがいる』に並ぶ質の高い楽曲とMVが実現すれば再ブレイクへの布石になると思います。

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