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正しく使えていないとナメられる法律用語10選

法律用語は専門用語です。業界人じゃないなら意味を知らなくても恥ずかしいことではありません。でも、

知らず知らずのうちに使い、しかも使い方を間違っていたら?
法務の仕事などで正しいと思って使ったのに意味が間違っていたら?

ちょっと恥ずかしいですよね。
古今東西の色々な記事で取り上げられたトピックではありますが、小難しい定義の解説という形ではなく分かりやすさ重視で説明しますので、今一度おさらいしましょう。

1. 「判例」と「裁判例」

判例」というと、原則として最高裁判所の過去の判決の規範(ルール)を指します。それ以外の地裁、高裁等の判決の規範は「裁判例」です。
「判例」は法律に次ぐ(ときには法律をも凌ぐ)ルールのようになりますが、「裁判例」は「過去にそう判断した裁判官もいたんだなー、今回も参考になるかもね」程度のインパクトしかありませんので、注意が必要です。

2. 「被告」と「被告人」

報道では「窃盗事件に関する法律太郎被告の初公判が開かれ、被告は無罪を主張しました」という表現をよく聞きますよね。これはマチガイです。
刑事事件で裁判にかけられている人を表すのは「被告人」です。
「被告」だと民事事件で訴えられた人を指すことになります(訴えた人は「原告」)。
ここまではマスコミ用語と法律用語の違いということで「そういうものか」と納得できなくもないですが。たまにテレビで民事事件で訴えられた人のことを「被告人」と呼んでいるアナウンサーも見受けられます。ここまでくると単なる誤りなのでやめてほしいところです。

3. 「直ちに」、「速やかに」、「遅滞なく」

法律において、 「直ちに」、「速やかに」、「遅滞なく」は時間的近接性の点で異なる使い方をされます。
急ぎ具合は、「直ちに」>「速やかに」>「遅滞なく」となります。
「直ちに」が一番急を要する感じで、「遅滞なく」が一番緩やかです。目安としてそれぞれ何日くらいなのかを正しく説明するのは骨が折れるので割愛します。
契約書等の法律文書でも同様の使い分けがされますので、契約書を読む際、または作る際には使い方に注意してください。

以下、民法の使用例です。

民法542条1項
次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
 債務の全部の履行が不能であるとき。
(以下省略)

「直ちに」

民法860条の3第2項
成年後見人は、その受け取った前項の郵便物等で成年後見人の事務に関しないものは、速やかに成年被後見人に交付しなければならない。

「速やかに」

民法645条
受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。

「遅滞なく」

4. 「主張」と「立証」

裁判の当事者が言っている内容が「主張」で、その証拠となるものを出す行為が「立証」です。これだけ聞くと当たり前だと思うかもしれませんが、実際かなり混同しやすいです。

民事訴訟を例に考えます。
民事訴訟では、原告の「請求」があり、請求ができることを基礎付ける事実として「主張」があり、主張が正しいことを証明するものが「証拠」という構造になります。どれかひとつが欠けていても請求は認められません。
主張を言いっぱなしでも勝てないし、言うべきことを言わないで裁判官に証拠をぶん投げても裁判では勝てないということです。

具体的には、訴状、答弁書、準備書面等の中で、「原告はお金を貸したのに被告は返さない」という記載があれば、それは主張です。
「被告から借用書に署名をもらった」、「貸した現場にA氏が同席していたので証言してくれるはず」という記載、これらも主張です。
他方、「借用書」、「A氏の法廷での証言」、「A氏の陳述書」、これらは証拠です。
さらに、準備書面での「A氏は利害関係にない立場だからA氏の証言は信用できる」という記載は主張です。裁判の期日で口頭で裁判官に伝えても同じです。A氏が証人尋問の場で「私は原告とは利害関係はないですよ」と言ったら、これは証拠です。

まだ皆さんギリギリ着いてこられているでしょうか。複雑な事案だったり、被告側の主張立証も増えると、さらに複雑化するのは目に見えていますよね。
最低限、「主張と立証は別物だ」という程度の認識がないと、主張の整理や証拠集めもうまくできませんので、裁判を検討している方や法務担当の方は知っておいた方がいい概念です。
用語の説明というよりは少々深入りしてしまいました。

5. 「ないし」

出ました。「ないし」です。
一般用語としては、ちょっと年配の人や、いかにも理論派みたいな話し方をする人が使用しがちでしょうか。若い人はあまり使わない印象です。一般用語だと、「キャンプには、ライターないしマッチを持って行った方がいい」などのように、「or」の意味で「ないし」が使われますよね。

法律用語だと全く使い方が異なります。むしろ意味は逆に近いです。
例えば、「本契約第2条ないし第5条の規定は、◯◯の場合には適用しない」というような使い方です。
ここにおける「ないし」は「or」の意味ではありません。「から(from)」という意味になります!
先ほどの例で言えば、「2条から5条の各規定は◯◯の場合には適用されない」という意味合いになりますね。

6. 「意思」と「意志」

この用語は予測変換で適当に選ばれがちな印象です。
法律の世界では「意志」は誤り、「意思」が正解という覚え方でいいと思います。法律関係文書で「意志」が使われているのはほぼ見たことがありません。
「意思表示」という使い方の場合も同様です。

7. 「みなす」と「推定する」

みなす」は、本来Aであるものを法的にはBとして扱い、「本当はBではない」という反対の証明(反証)を許さない言葉です。
推定する」では、文字どおりAがBと推定されるだけなので、「本当はBではない」という反証もありです。
効果は「みなす」のほうが強いということになりますね。
違いを意識せずに「推定する」のニュアンスの場合でも「みなす」と書いている方が多い印象です。
関係ないですが、法律のプロじゃない方が書いた攻撃的な文書で、「○日以内に回答しない場合、認めるものとみなします」みたいな使い方がされているのをよく見ます。

8. 「善意」と「悪意」

法律用語において「善意」とは、とある事実の存在を知らなかったことをいい、「悪意」とは、逆に知っていたことをいいます。
道徳的な良し悪しとは関係ありません。
一般用語的な「悪意」に近い表現であり、とある人に危害を加える目的があった場合を表す法律用語として、「害意」というものがあります。
どうでもいいですが、「善意だとなんか法律的に有利っぽいな」という知識を持って、「俺は良かれと思ってやったんだ!善意だ!」とアピールする人が法律相談に来ると、モンスターカスタマーであることが多くゲンナリします。

9. 「場合」と「とき」

法律用語で「とき」というと、原則として特定の時点を指すのではなく、仮定条件を表す言葉です。
例えば、「Aの存在が明らかでないときは、Aは存在しないものと推定する。」という使い方です。
よって、意味は「とき」の意味は「場合」とほぼ同じです。

「とき」と「場合」の違いは、両方の言葉を一度に使う際に明らかになります。
例えば、「この記事がバズった場合において、批判的なコメントが多いときは炎上したものと推定し、肯定的なコメントが多いときは良記事だと推定する。」という文章を見てください。
このように、大きなくくりには「場合」を使い、その中の小さなくくりには「とき」を使うという使い分けがされます。
読みにくいと感じる法律関係の文書では、「Aがあったときは○で、Aがなかった場合は×である」というように、適切にこれらの使い分けがされていないことが多いです。

10. 「又は」と「若しくは」、「及び」と「並びに」

最後です。ラスボスです。有名な用語ですね。
又は」と「若しくは」は共に「or」の意味を有し、「及び」と「並びに」は共に「and」の意味を有します。ここまではイメージどおりでしょう。

「又は」と「若しくは」の使い分け
「ぶどう、リンゴ若しくは桃その他の果実又は鶏肉若しくは豚肉その他の食肉」のように、大きいくくりでは「又は」、小さいくくりでは「若しくは」を使います。「場合」と「とき」の関係に似ています。
二重のくくりが発生しない場合は、「又は」を使います。

「及び」と「並びに」の使い分け
上記と同様に、大きいくくりでは「並びに」、小さいくくりでは「及び」を使います。
二重のくくりが発生しない場合は、「並びに」でなく「及び」を使います。単体では小さいくくりの方を使う点で「又は」とは異なるので、注意です。

おわりに

他にも法律用語は色々とありますが、メジャーなものはだいたい紹介しました。
法律関係でない職業の方は、基本的には知らなくても問題ないですが、教養の一つとして知っておくといいと思います。法律家は論理的思考が得意な人が多いですが、言葉の正しい使い方は思考の整理にも役立ちます。

法務等の法律に関係する職業の方は、上記くらいは知っておいたほうが良いと思います。
特に、知らず知らずに不正確な言葉遣いをしてしまうと、上司から叱られたり。相手方から「この会社は法律に弱いんだな」と思われたりする可能性があります。



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