真夜中の少女
今日最後の現場が終わり付近の駐車場に足を進める。
私の軽バンが見えてきた。
荷台に工具や廃材を詰め込んで運転席に向かおうとした時、塀と車の間にうずくまる塊りを見つけて咄嗟に大声を上げた。
菊池「うっわぁー!!!?!?」
塊りはゆっくりと私の方に頭を向けそのまま目が合う。
菊池「………。」
塊り「………。」
まだ小さい女の子。
片方ずつ別々の靴とサンダルを履いて、パジャマ姿のまま泣いていた。
菊池「なんで泣いてるの?」
少女「お父さんがね。お母さんをいじめたの。」
菊池「え。叩いたの?」
少女「んーん。大きい声でね。いじめたの。」
「お母さん泣いてた。」
菊池「いつもなの?」
少女「んーん。初めて。」
「怖くて家から出て来たけど。夜だし。怒られるかもしれない。」
「怖くて帰れない…。」
話を聞くと彼女の家は駐車場の塀の真裏だった。
小学校低学年の彼女。
普段は仲のいいお父さんとお母さんが自分の目の前で初めて声を荒げて喧嘩をした事から身の危険を感じて逃げ出したらしい。
初めて声を荒げた父親の恐ろしさと。
泣きながら父に対う母親の心配と。
こんな夜遅くに1人で家を飛び出してしまった罪悪感を必死に私に訴えて来た。
息を切らしながら話し続ける彼女のSOSの声を塀を背に体育座りで並んで聞いていると。
塀の向こう側から彼女の名を呼ぶ声が聞こえた。
菊池「呼んでる。帰ろう?」
少女「怒られるかも…。」
菊池「大丈夫。守ってあげる。」
少女「本当?」
菊池「本当。嘘つかない。」
塀の裏側までの10数メートル。
彼女は私の手をギュッと握って顔を硬らせる。
父「〇〇!!!!!」
私達の元へ駆け寄る2人。
母「どこに行ってたの!?良かったぁ…。良かったぁ…。」
泣きながら彼女を抱きしめる母親。
あんた誰?と聞かれる前に事情を説明する。
「ばいばい!」
そう言い合って別れた彼女の両手は大好きな父と母の手にしっかりと繋がれていた。
色んな人がいる。
色んな家庭がある。
色んな事情がある。
何があったのか詳しくは分からないけど、少なくとも彼女が今いる場所は彼女にとって1番温かく居心地の良い場所だろう。
落ち着いたら一度久しぶりに実家に帰ろう。
そんな事を思いながら車を走らせた。
菊池真琴
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