【10】日ソついに開戦~来たるべきもの遂に来る~
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突然会議室の内扉が開き月岡参謀が現はれ、
ほの暗い動員室を一瞥すると
「これで全員だな。・・・いよいよ始まったわい。ソ連軍が只今、全満の国境を突破、わが方もこれに応戦している。それでこの司令部も爆撃を覚悟せにゃならぬ。司令部は現在地を動かぬ予定だから、重要書類は払暁を待って防空壕に移転、不要書類は焼却、午後の行動については別命する。」
といって他室へ向かった。
これだ!!
来たるべきもの遂に来る。
日ソ開戦。
血がおののいた。
いづれの時代か戦う宿命にあるとの莫とした意識が吹きとんだ。
“日ソ開戦”
われわれはお互い言葉によって表現し得ない感情をからだに感じ、すでに明白となったこの事実を5尺のからだに包んでおくことが出来なかった。
それでいて、行李に重要書類を詰め、あるいは不用品を区分しながら連発する言葉は万感をこめたしかも簡単な「やりやがったな」の一言につきた。
時に昭和20年8月9日の未明であった。
両角少尉は会議に出席し、残ったわれわれは現に進行しつつある業務の膨大な書類―それは不眠不休ともいうべき苦労の積み重ねではあったが、夜明を待って灰となって この世から姿を消していった。
夜明けと共に開戦の興奮も少し落ち着き、それと共にわれわれは先づ現有兵力の弱少が頭に浮かんできた。
かつて昭和16年の夏「関特演」(関東軍特別大演習)の名のもとにその兵力は200万といわれ、その装備を誇り北辺鎮護盤石の関東軍と称せられたものが、今や刻々悪化する南方戦線、更に日本本土防衛にとその兵力を削減されていった。
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