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#13 なぜ今、地域の「参加力」が必要なのか

この記事は、2020年度札幌市みんなの気候変動SDGsゼミワークショップのふりかえり記事です。
みんなの気候変動SDGsゼミ・ワークショップ
www.city.sapporo.jp
札幌市主催「みんなの気候変動SDGsゼミワークショップ」。気候変動対策や持続可能性をどのように実行していくかをみんなで考える場です。

2年目の今年は、新型ウィルス対策のため、すべての回をオンラインで実施。もともと、企業、NPO、学生、専業主婦、自治体職員など多様なメンバーの参加がありましたが、今年は全国から参加ができることとなりました(!)。2020年9月から翌年2月まで全13回を終え、一旦の幕を閉じました。

この取り組みにおいて、私は企画や運営〜アーカイブを担いました。自分なりに最後のふりかえりをしておきたいと思います。

それにあたり、参加力という切り口が思い浮かびました。「参加」は、この取組の1つのキーワードです。また、しばしば、まちづくりのワークショップでは、市民参加や官民協働などが言葉として聞かれます。

ただ、そもそもなぜ今、地域コミュニティに参加が必要なのでしょうか。今だからこそよりはっきりと言葉にできることもあると思いました。この取組で起きたことの観察と解釈を、ここに書き残しておきたいと思います。

結論から言えば、今私たちの地域社会には、参加力が必要だと私は考えています。そこには、大きく分けると二つの視点があります。道義的な視点と、もう一つは経営的な視点です。

道義的な視点|個人のニーズを満たすこと

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今回学んだマックス=ニーフの言葉を借りれば、私たちは「ニーズが満たされること」で、人生や暮らしがよりよくなることを望んでいます。そして、その満たし方は人それぞれです。あなたの満たし方は、あなたにしかわかりません。

実際、そうですよね。もしあなたが、誰かにとってばかり都合がよいように作られた環境で、「これがあなたの幸せです」と押し付けられたとしたら、あなたはニーズを満たしづらいのではないでしょうか。

参加とは、つながりの中に一員として加わり、目的を持って行動をともにすることです。私たちは参加を通じて、自分をニーズを表現し、共に実現することができます。

一部の人だけではなく、みなが参加できるようになることによって、私たちは「誰かのせい」「誰かまかせ」ではない、「より多くの人々が自らニーズを満たすことができる社会」をつくることができます。

このゼミワークショップのタイトルにあるSDGs(持続可能な開発目標)の標語は、「誰ひとり、置いていくな(leave no one behind)」です。その標語を踏まえて、前半でこのようなことを話しました。

「あなたが、あなたを置いていかないために、誰も置いていかないために、どのようなゼミワークショップの仕組みがあったらよいか」。多くの声が上がりました。オンラインながら、場から熱気が立ちのぼったように感じたのは私だけでないはずです。

今、私たちの社会は、「移行期間」にあると私は思っています。敷かれたレールは終わり、決まった答えはありません。先の見えない暗闇のなかで、私たちを導く光があるとすれば、こうした道義的な価値/人間性であることに私は疑いがありません。そして、その時に私やあなたが一人ぼっちではなく、「私たち」として進む力を鍛えること、それが「参加」ではないでしょうか。

経営的な視点|複雑な課題への対応

もう一つ、このゼミで聞かれたのは、参加力の不足が、地域の経営上の問題であるということです。

このブログ上で何度も繰り返しましたが、いま私たちの地域社会では、多くの課題が複雑化しています。

・さまざまな要因がからみあっている
・一人/シングルセクターでは、どうにもならない
・決まった答えがない
・終わりがない
・常に状況が動いている

こういった課題のことを「複雑」といいます。9回のブログが、その具体例としてわかりやすいでしょう。「鳥獣被害を防ぐために耕作放棄地の管理する」という理屈上はシンプルな解決策も、いざ実行するとなると、上記の性質がはっきりと出てきます。

こうした複雑な課題に取り組むためには、多様なセクターな参加し、共にはたらきつづける関係性が役に立ちます。

共にはたらきつづける関係性

言葉を変えれば、私たちは、そのような関係があると、地域は複雑な経営環境下で、しあわせに生き延びるために優位になります。

①あらゆるところからの貢献を集める
②複雑な現実に共に向き合い、学ぶ
③試行錯誤する
④それらを続けられる関係性をつくる

①あらゆるところからの貢献を集める

複雑な問題は、一人/シングルセクターでは、どうにもなりません。そこで、あらゆるところから貢献を集めるために、参加意欲を掻き立てる旗印を立てる必要があります。

この取組で、その旗印となったのが、気候変動やSDGsでした。札幌市の主催ではあるものの、参加者にとっても自分の利害や未来に関わる、むずかしいチャレンジだからこそ、全国各地から有志が集まったのではないでしょうか。

今回の取り組みをきっかけに、一度も札幌に来たことがない人が、北海道外にいながら、わざわざ自分の知恵、時間、お金をこの取組に持ち寄っています。これは、注目に値する事実でしょう。これは移住、ふるさと納税、関係人口づくりの議論にもつながります。世知辛い話ですが、いま地域間で、人材と時間、お金の争奪戦が始まっていることを思い出してください。

②複雑な現実に共に向き合い、学ぶ

このゼミでは、教科書ではなく、実際に起きているリアルな暮らしを観察することで学びました。平飼い卵農家、漁師、外来種、クマとの共存の実態を見たり、海外や他の地域にいる人たちとの話し合い。

こうして、参加者は自分の想像の外側にある、しかし、自分の生活の中にある複雑な現実を知るほどに、想像力を鍛えていきました。

今まで意識してなくて知らなかったことが多すぎた。まず買い物から変わりました。地産地消を買うように。平飼いの卵を買うように。魚をみたら漁師さんの顔を思い出すようになりました。生態系のことも全く思考外でした。周りにはそれを知らない人だらけなので話しています。
札幌の生活の中で起こる問題は、日本や世界で起きていることに起因していることを知った。「どうして?」から「どうにかしなきゃ!」に気持ちが変わった。すぐに答えはでないけれど、みんなが「どうにかしなきゃ」になることが大事だと思います。

複雑な現実や、暮らしの中の切実さに向き合うことなく考えられたアイデアのことを、私は「パヤパヤ」「キラキラ」と言います。そのようなお勉強会やイノベーションごっこに時間やお金を使って、「やった感」だけで満足しているうちに、私たちはほんとうなんとかしないといけない課題を「次世代まかせ」にしてしまいます。
ただ、複雑な現実に独りで向き合うのは、さすがにキャパオーバーということも理解できます。むずかしいけれと、なんとかしないといけないことに向き合うために、私たちは一緒にいる必要があります。

③試行錯誤する

今回の取組を通じて、地域内の企業、何かにチャレンジしたい高校生や大学生、専業主婦/夫、企業人、自治体職員などが共に行動を起こしました。

北海道内でサスティナブルプロダクトを製造販売する企業に視察に行く。卵農家に遊びに行く。オンライン対話イベントをやる。このゼミワークショップの卒業証書を勝手に作るなどです。

このように、まるで豊かな土壌から、さまざまな実りがなっていくように、自発的なスピンオフ企画が飛びてていきました。

複雑な課題は、先が予測できないことのほうが多く、後で振り返ることで成果がわかるものです。このため、こうして「実験的に様々なことをやってみて、より意味のあるものを手探りしていく」ことが役に立ちます。

なお、このように人々が自分にとって必要なタイミングで、勝手につながりたいようにつながることを自己組織化といいます。その結果、「1+1=2+α」の成果が現れることを創発といいます。しばしば、それは既存の枠組みを超えたもの(イノベーション)となります。

④それらを続けられる関係性をつくる

このゼミが終わった後も、参加者はアクションを続けています。たとえば、このゼミでは参加者だった方が、今度は別の事業で、運営チームとしてファシリテーターとグラフィックレコーディングを担うという取組が立ち上がりました。

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小学校6年生の環境教育のために、このゼミの参加者が一肌脱いで「ゲスト」から「ホスト」になったといえます。私もその事業に携わりましたが、そこで発揮された個人のスキルもチームワークも、特に、人の内発性を支えるようなコミュニケーションスキルにおいて、このゼミで培った学びが活かされているように私には見えました。

「小学生よりも自分たちの方が正しいことを知っているという思い込みを手放すこと」(プロジェクトに参加されたお母さん)
その結果、小学生たちがこれまでの授業では見られなかったような主体性を発揮して、それぞれに自分らしく参加をする様子は、多くの保護者を驚かせました。

こうした継続的な取組をサポートするプラットフォームとして、チャットアプリ slack、ホワイトボードmiroなどデジタルツールがあります。それらは参加者同士がやりとり、呼びかけあいをするのに役に立っています。また、自分たちの声や学びをアーカイブするものとして、note、Youtubeなどいくつかのメディアが活用されています。

今後、どのようにこうした動きの継続性を持たせるかということは、このゼミで立ち上がったコミュニティの次の課題ではないでしょうか。今の時代のように、見たこともない課題に対応したり、すばやく変わり続ける環境に適応したりするためには、私たちは単発のイノベーションではなく、それを起こし続けることが求められるからです。

あらゆるところからの貢献を集める。複雑な現実に共に向き合い、学び、試行錯誤する。それらを続けられる関係性をつくる

これは、地域コミュニティが今の時代を生き抜くために必要になってきているのではないでしょうか。これは、ソーシャルグッドなだけではなく、地域の生存戦略の話です。

参加を通じて、あなたが見たい思う世界の一部になる

コミュニティの参加力を育む事は、新しいチームスポーツを行うようなもので、決して容易なことではありません。

まして、声を上げることや対話からの逃避によってつくられる「平和」を好む傾向がある日本の社会の中では、参加する「自由」を練習をすることは、まだ多くの人に応援されることではないでしょう。

さらに、厳しいようですが、ますます複雑かつ不確実になっていく社会の中で、諦められる望みがあるならば、諦めたほうが、私たちは心安らかではないでしょうか。

しかし、それでも、もしあなたにとって、大切なことが大切にされることをあきらめたくないならば。なんとかして変えていきたい現実があり、つくりたい/残したい未来があるならば、あなたは「参加する私」になることを選ぶことがができます。

マハトマ・ガンジーは、「あなたが見たい思う世界に、あなたがなりなさい(Be the change that you wish to see in the world)」と言いました。簡単な解決策のない/そもそも答えもおわりもない世の中で、私たちに求められるのは、解決策をつくることではなく、解決策の一部になり続けることです。

もしあなたが複雑さの前で未来をあきらめず、「ガチでなんとかしたい」という切実さをその胸に抱くならば、あるいは、その”種火”に貢献することを選ぶならば、私たちは、あなたが見たい思う世界の一部になろうとするチャレンジの隣に立ちたいと思います。

次はあなたの街で

私は2019年から含めて40本以上、このゼミ・ワークショップの歩みを記録する記事を書いてきました。そこにはいくつかの意図がありますが、しいて一つ言うとすればこのような「セーブデータ」を引き継いで、次の人が、あなたが、この冒険を先に進めてくれることを願っているからです。

私たちの人生はこれからも続きます。待ったなしの複雑な社会課題は山積しています。今こそ、一緒にあなたのチームやコミュニティの「参加力」を鍛えることにチャレンジしませんか。そして、共に続けていきましょう。次はあなたの街で。

長らくこのシリーズにお付き合いいただき、ありがとうございました。また次のプロジェクトでお目にかかるのを楽しみにしています!

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【#13コラム】なぜ今コミュニティの「参加力」が必要なのか
エディター 反町恭一郎

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