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やっと来た私の週末

 本日は月曜日。日本の世間一般的にはお盆休みが終わってまたいつもの日常が戻り、気持ちも新たに頑張ろうという日ではなかっただろうか。

 私が始めたばかりの仕事は、土日も祝日もない。施設が休館になる月曜日が唯一のお休みなのだ。私は先週の土日に特別に休みを頂いたので、この土日はいつもより長い勤務時間でそのコンペンセーションをする。

 そして今日は待ちに待った月曜日。近所ではアパート建設か工事があって、その爆音で小鳥たちの声もかき消されている。静かな普通の週末とは明らかに勝手が違う。

 流石に疲れた6日間だった。特に土日はいつもとは違ったお客さんの流れがあって体力を消耗した。実際、初めての土曜日を乗り越えた後の昨日の日曜日は、あまり体調もよろしくなかった。でも、普段とは違った経験もあって心躍る瞬間もあったことは確かだ。

 土曜日の開館の後、割と早い時間に日本の兵庫の作家さんの織物のワンピースをお買い上げくださったお客様がいらした。メキシコシティからの方だった。糸から染め上げて丁寧に織られた播州織の一点もののワンピース。その染色、織りの特殊な製法から、一つとして同じ色合いの作品を生み出すことは不可能で、全ての作品が一点ものとなる。

 なかなか高価な品物だが、お留守番の奥様のことを想われたお客様のお目が高く、とても感動した。私の拙い説明にも優しく耳を傾けて下さったが、その方がご覧になり手に取られてお気に召されたご様子がとても嬉しかった。

 そのすぐ後、日本からの旅行者の女性が同じ作家さんの別の品物をご覧になられていた。声をおかけすると、兵庫からの方でこの作家さんをご存知なのだとか。日本から遠く離れた国で、地元のアーティストさんの作品がこのような形で売られているとは思いもよらなかったことだろう。旅の良い思い出の一つになったらいいな、と心から思った。

 ワンピースの件では、いつもは手厳しいマネージャー女性に「おめでとう!」と声をかけられて気恥ずかしかった。でも、そんな余韻に浸る間もなく、あたりが急に賑やかになった。どこかの公立の小学校の遠足なのか、ドヤドヤと子供たちが店内に流れ込んできた。 

 最初は些細な質問から始まった。「この植物たちは本物?」「そうよ」と。会話を重ねるうちに私に只者ではない雰囲気を感じたのだろう、きた、きた。

「あなた、日本人?」

それからは質問攻めだった。「Yakissoba(焼きそば)は好き?」「箸で食べるの?フォークも使う?」「いつも着物を着るの?」「日本の通貨はienes (円)ですか?」「なんでこんなに高い?」「ブラジルに来てこれは変⁉︎と思ったことは?」などなど。

 割合と落ち着いたお客様が多い店内の一角にみるみる人だかりが出来てしまった。最後は引率の先生に「子供たちと一緒に記念の写真撮影を」とまでお願いされて参った。でも子供たちに少しでも日本の文化が伝わったのなら喜ばしいこと。

 子供たちに限ったことではない。私の説明から(中には姿を見ただけで?)「あなたは日本の何処から来たの?」と訊かれる方が少なからずいらっしゃる。昨日の日曜日も、ベロオリゾンテという別州からバスでであろうか、8時間かけてこられたという非日系の女性二人組にもそういう質問を受けた。

 お一人は日本を旅することが長年の夢で、特に何かの映像でみた名古屋と福島に行ってみたいという話だった。東京のような大都市にはあまり興味がないと。

 お父様が柔術か柔道を教えられていたからか日本文化に興味を持ち、現地開催の日本祭りに足を運びその時に日本酒を堪能されたのだとか。

 この日は旅の記念にと、美しいピンク色の瓶が気に入ったというにごりの小瓶をお買い上げになられた。本当はブラジルのカイピリーニャに使われるピンガのような蒸留酒がお好きなようだけど、日本から輸入されたウィスキーやジンは「旅のちょっとした記念」に買うには高価すぎる。

 「後であなたの出身地のChibaの検索をしてみるね」そんなことも言っていただいた。イザベラとご友人のその後の旅が安全でハッピーでいっぱいでありますように、と心から願った。


***



 環境が変わって慌ただしい日々が続いているが、家の断捨離も着々と(子供たちのテリトリーは特に)進んでいる。振り返ることが全くなかった書籍は処分したり寄付に出したりして、大部分を放出した。何処かで、必要な方達のお役に立てればそれでいい。

 30年の伯国生活で溜まっていた手紙類も整理した。開かずの箱?を開けると実家から届いた手紙が一番多い。実家ではエアメール係は父だった。久しぶりに目にする父の、几帳面で懐かしい文字。

 そんな中、夫が私に贈ってくれたクリスマスカードが出てきた。1998年、娘が生まれる前年のものだ。私はよく覚えていないのだが「ここには私の味方はいない」と愚痴っていたようで、その言葉が今でも聞こえてくる、と記されていた。(一体何があったのか。。)

「色々大変だと思うけれど頑張って。僕がいつもついているから。」

 今このタイミングで見つけたその言葉。意味があることのように思えてならなかった。

こんな可愛いカードを選んでくれていたのね

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