我が家は暗い。 朝は自然光。部屋が奥まっているため、暗い。だがそのほの明るさ加減を、わたしは嫌いではない。それに、一歩外に出ればいやというほど明るいのだから、なんの問題もない。 夜のキッチンは、全体照明不在の中、天井の埋め込み灯、調理台上の2灯、そして可変アームのテーブルライトで明かりをとっている。プラス時々キャンドル。 わたしは蛍光灯の光がどうも好きではなく、特に食卓にそれは避けたい。 白熱灯の(色の)光なら、料理をおいしそうに見せてくれるし、気持ちも和む。
覚えているかい? あの一面の菜の花畑を。 温かくなり始めたやわらかい空気の中を、踊るように歩いた春の日。 辺りに漂っていたのは、ほかのどこにもない匂いだった。 甘い匂いでもなく、芳醇な香りでもなく、 青い匂いでもなく、爽やかな香りでもない。 それはまぎれもなく菜の花の黄色の匂い。 つかまえようとすれば遠のき、忘れているとふいにやってくる。 菜の花は思い。 菜の花は追憶。 菜の花は君。 白い空の下に広がる黄の野に立つ。 瞳を閉じたわたしの耳に、 こちらへこちらへと、い
#創作大賞2024 #オールカテゴリ部門
比較的早い時間に帰路に就けてよかったと思ったが、連日の超睡眠不足のツケはやってくる。 常磐道入った頃にはかなり辛くなり、サービスエリアでバタンキュー状態だった。 目覚めてびっくり外はどしゃ降り。 やっべ~と思いつつエンジンキーを回したが、セルモーターすらクスンとも言わない。 ハッ 案の定、ヘッドライトをつけっぱなしだった! 今頃ライトを切っても遅い。悲しいかな、お手上げである。 冷静に考えた結果、わたしはJAFに電話をした。 深夜0時過ぎ、同じような車が5台いるので
ギャラリーTohgoに久しぶりに音楽が満ちました。 「おりおり」のお二人が、録音録画を兼ねたプライベートLiveをなさったのです。 松の木の梁も、星崎雪乃さんの法螺貝の灯りも、嬉しそうでした。 誰より嬉しかったのは、私かもしれません。 「初夏」が好きだというギタリスト大宮麻比古さんの、空間を包み込むような自由で広がりのある音に乗って、totoさんが縦横無尽に言葉を繰り、唯一無二の世界を構築していきます。 カエルの声も子供たちの声も、お二人の音楽世界ではアクセントとして難
風の中を泳ぐ毎日に 時折凪がやってくる あたたかな白熱灯の下で 久しぶりの笑顔が集う 70を過ぎた一人暮らしのあなたの 質素な野菜料理はあまりにも美味しく 旅立つあなたがたの驚きは あまりにもまぶしく すみの席からながめる食卓の風景は やさしくて せつなくて 思い出すだに涙がこみあげる わたしはここ 隣を気遣う夕暮れの電車の中 刻んだ記憶の扉を開ければ 心はそこを自由に行き来し しかし決して言葉をはさめない幸福の場所を ただ
三日月ってきれいだよね。 でも七難八苦を与えよと祈ったお侍さんもいる。 うん。三日月さんは、そんなものを与えるイメージじゃないけどね。 もっと細い、猫の爪みたいなの、あれって、すご~いってわくわくする。 ごくたまにしかお目にかかれない気がする。 少しずつ太っていって、普通になって、それで半月。 半月ってさ、なんか哀しい感じしない? それまでは特になんにも思わないんだけど、半月まできちゃうと、なんか 哀しいんだよ。 ほんと、ぽっきり半分ない、って感じ。 半分ま
この季節に 活字追うよりも一人思うを選び 瞳凝らすよりもなべて眺めるをよしとし 雑多な言葉よりも簡素な思い信じ 木々の緑豊かなるを目にしてはため息をつき 枝先天に広がりたるを見ては涙し いにしえよりの切なき願い胸に溢れ 鈴掛と楓見下ろす草地に座すを夢見る いまだ 緑の玉座に値せざる者は 進むことも さりとて退くことも 加えて立ち止まることも許されず 交わらぬ位置を行き過ぎる刹那に すべてを悟らんと欲す 風は 何も語るまい 雨は 心潤すか
雨音は語らない 歌うだけです 雨音は止まない 届かなくなるだけです 雨音は誘わない 完結は ただ一人をよしとします 雨音は胸に響きます 猫が寝息を立てればなおさらです 雨音は回帰を促します ただし急いではならぬと言い添えます 雨音は饒舌でしょうか いえ決してそうではなく むしろ言葉を拒みます 言外の言、論外の論を重んじます 本当にそうでしょうか 本当は 寂しかったのではないでしょうか その証拠に 戯れに思いを
今日は死後と(仕事ですよ~。いきなりこんな変換てありか!?)が早く終わった。 車の助手席に乗せた、まっかなトマト3つととサラダ菜一株。どちらも村内の友人知人からもらったものだ。それを、ちょっと離れた友人宅にお福分けに行くこと決定。 窓は大きく開けておいたが、雨が降り込まなくてよかったものの、逆に外気温が32度にもなり、車内はたいへんなことになっていた。 トマトも菜っ葉も日に照らされ、さわれば温かくなっている! しかしもともと新鮮だったことと水浴びをさせてきたことが幸
ありったけの朱を 紅を 橙を 溶かしてこの胸に 闇と光の狭間から 取り出した思いは君に 怒りを 閉じ込めて 閉じ込めて 明日を育み 記憶を 沈めて 沈めて 過去を濾過し 夢と旅と風と音が 熱となってはやがて冷えることを繰り返して はるか波打つ雲海の 藻屑となって消える前に 今 全身の力込め ひとり空に放つ
友人の渋谷ライヴに行った。その途中の山手線の中。あれはたぶん高田馬場。 電車のドアがあく。酔っ払いらしき、ホームにしゃがみこんだ男の人のしゃがれ声。乗るぞ~と言っている。 乗ってきた。そのとたん、よろけて反対側のドアの前に倒れる。周りの女の子たちは、慌てて、逃げるように降りてしまった。 おじさんは、床に座って足を投げ出したまま、独り言とも呼びかけともつかない様子で、ずっとしゃべっていた。 次の駅で乗ってきた外国人男性は、いぶかしげに一瞥を投げ掛け、車内中程に進む。