埴科きき

アイルランドが大好きなシンガーソングライター。歌うものは自作曲、Irish、映画音楽。…

埴科きき

アイルランドが大好きなシンガーソングライター。歌うものは自作曲、Irish、映画音楽。風を探す旅人。木や雲などの自然、動物、本、縄文時代、美味しいもの大好き。車も旅も。宇宙と地球暦も。

最近の記事

静かな夜に

我が家は暗い。 朝は自然光。部屋が奥まっているため、暗い。だがそのほの明るさ加減を、わたしは嫌いではない。それに、一歩外に出ればいやというほど明るいのだから、なんの問題もない。 夜のキッチンは、全体照明不在の中、天井の埋め込み灯、調理台上の2灯、そして可変アームのテーブルライトで明かりをとっている。プラス時々キャンドル。 わたしは蛍光灯の光がどうも好きではなく、特に食卓にそれは避けたい。 白熱灯の(色の)光なら、料理をおいしそうに見せてくれるし、気持ちも和む。

    • 春の日

      覚えているかい? あの一面の菜の花畑を。 温かくなり始めたやわらかい空気の中を、踊るように歩いた春の日。 辺りに漂っていたのは、ほかのどこにもない匂いだった。 甘い匂いでもなく、芳醇な香りでもなく、 青い匂いでもなく、爽やかな香りでもない。 それはまぎれもなく菜の花の黄色の匂い。 つかまえようとすれば遠のき、忘れているとふいにやってくる。 菜の花は思い。 菜の花は追憶。 菜の花は君。 白い空の下に広がる黄の野に立つ。 瞳を閉じたわたしの耳に、 こちらへこちらへと、い

      • あの人の歌

        #創作大賞2024 #オールカテゴリ部門

        • JAFのプロフェッショナル魂

          比較的早い時間に帰路に就けてよかったと思ったが、連日の超睡眠不足のツケはやってくる。 常磐道入った頃にはかなり辛くなり、サービスエリアでバタンキュー状態だった。 目覚めてびっくり外はどしゃ降り。 やっべ~と思いつつエンジンキーを回したが、セルモーターすらクスンとも言わない。 ハッ 案の定、ヘッドライトをつけっぱなしだった! 今頃ライトを切っても遅い。悲しいかな、お手上げである。 冷静に考えた結果、わたしはJAFに電話をした。 深夜0時過ぎ、同じような車が5台いるので

        静かな夜に

          森の歌

          #創作大賞2024 #オールカテゴリ部門

          音と言葉のある空間

          ギャラリーTohgoに久しぶりに音楽が満ちました。 「おりおり」のお二人が、録音録画を兼ねたプライベートLiveをなさったのです。 松の木の梁も、星崎雪乃さんの法螺貝の灯りも、嬉しそうでした。 誰より嬉しかったのは、私かもしれません。 「初夏」が好きだというギタリスト大宮麻比古さんの、空間を包み込むような自由で広がりのある音に乗って、totoさんが縦横無尽に言葉を繰り、唯一無二の世界を構築していきます。 カエルの声も子供たちの声も、お二人の音楽世界ではアクセントとして難

          音と言葉のある空間

          鈍色になるまで

          #創作大賞2024 #オールカテゴリ部門

          鈍色になるまで

          白熱灯の下で

          風の中を泳ぐ毎日に 時折凪がやってくる あたたかな白熱灯の下で 久しぶりの笑顔が集う 70を過ぎた一人暮らしのあなたの 質素な野菜料理はあまりにも美味しく 旅立つあなたがたの驚きは あまりにもまぶしく すみの席からながめる食卓の風景は やさしくて せつなくて 思い出すだに涙がこみあげる わたしはここ 隣を気遣う夕暮れの電車の中 刻んだ記憶の扉を開ければ 心はそこを自由に行き来し しかし決して言葉をはさめない幸福の場所を ただ

          白熱灯の下で

          月の夜に

          三日月ってきれいだよね。 でも七難八苦を与えよと祈ったお侍さんもいる。 うん。三日月さんは、そんなものを与えるイメージじゃないけどね。 もっと細い、猫の爪みたいなの、あれって、すご~いってわくわくする。 ごくたまにしかお目にかかれない気がする。 少しずつ太っていって、普通になって、それで半月。 半月ってさ、なんか哀しい感じしない? それまでは特になんにも思わないんだけど、半月まできちゃうと、なんか 哀しいんだよ。 ほんと、ぽっきり半分ない、って感じ。 半分ま

          春を行く人

          #創作大賞2024 #オールカテゴリ部門

          春を行く人

          この季節に

          この季節に 活字追うよりも一人思うを選び 瞳凝らすよりもなべて眺めるをよしとし 雑多な言葉よりも簡素な思い信じ 木々の緑豊かなるを目にしてはため息をつき 枝先天に広がりたるを見ては涙し いにしえよりの切なき願い胸に溢れ 鈴掛と楓見下ろす草地に座すを夢見る いまだ 緑の玉座に値せざる者は 進むことも さりとて退くことも 加えて立ち止まることも許されず 交わらぬ位置を行き過ぎる刹那に すべてを悟らんと欲す 風は 何も語るまい 雨は 心潤すか

          この季節に

          まるい地球の歌

          #創作大賞2024 #オールカテゴリ部門

          まるい地球の歌

          雨音は語らない

          雨音は語らない 歌うだけです 雨音は止まない 届かなくなるだけです 雨音は誘わない 完結は ただ一人をよしとします 雨音は胸に響きます 猫が寝息を立てればなおさらです 雨音は回帰を促します ただし急いではならぬと言い添えます 雨音は饒舌でしょうか いえ決してそうではなく むしろ言葉を拒みます 言外の言、論外の論を重んじます 本当にそうでしょうか 本当は 寂しかったのではないでしょうか その証拠に 戯れに思いを

          雨音は語らない

          ありがとカレー

          今日は死後と(仕事ですよ~。いきなりこんな変換てありか!?)が早く終わった。 車の助手席に乗せた、まっかなトマト3つととサラダ菜一株。どちらも村内の友人知人からもらったものだ。それを、ちょっと離れた友人宅にお福分けに行くこと決定。 窓は大きく開けておいたが、雨が降り込まなくてよかったものの、逆に外気温が32度にもなり、車内はたいへんなことになっていた。 トマトも菜っ葉も日に照らされ、さわれば温かくなっている! しかしもともと新鮮だったことと水浴びをさせてきたことが幸

          ありがとカレー

          空に放つ

          ありったけの朱を 紅を 橙を 溶かしてこの胸に 闇と光の狭間から 取り出した思いは君に 怒りを 閉じ込めて 閉じ込めて 明日を育み 記憶を 沈めて 沈めて 過去を濾過し 夢と旅と風と音が 熱となってはやがて冷えることを繰り返して はるか波打つ雲海の 藻屑となって消える前に 今 全身の力込め ひとり空に放つ

          渋谷でさよなら

          友人の渋谷ライヴに行った。その途中の山手線の中。あれはたぶん高田馬場。 電車のドアがあく。酔っ払いらしき、ホームにしゃがみこんだ男の人のしゃがれ声。乗るぞ~と言っている。 乗ってきた。そのとたん、よろけて反対側のドアの前に倒れる。周りの女の子たちは、慌てて、逃げるように降りてしまった。 おじさんは、床に座って足を投げ出したまま、独り言とも呼びかけともつかない様子で、ずっとしゃべっていた。 次の駅で乗ってきた外国人男性は、いぶかしげに一瞥を投げ掛け、車内中程に進む。

          渋谷でさよなら