おばあちゃんとバレンタイン

2月14日(日)

バレンタインデー!別に普通の日である✨

甘くほろ苦い思い出などありはしないが、一回だけ忘れられないバレンタインがある。

おばあちゃんからもらったチョコだ。

2年前に亡くなった祖母は、祖父が他界してからというものみるみる弱っていった。僕はとても1人にさせたくなかったので、週1で仕事帰りに祖母宅に通っていた。

あんなに活動的だっおばあちゃんが、ソファーの上で地蔵のように動かない。文字通りじっと座っている。視線はいつもぼんやりとテレビに向けられていたが、内容を把握しているとも思えなかった。エンタメ番組で東野幸治がとった観客の笑い声は、リビングの冷たい空気にむなしく吸収されるだけ。

僕は祖母の隣で会話を試みるが、たいていは僕の独り言だった。会社の話、家族の話、祖母から話題がふられることはあまり無かった。そんな中、僕は当時ハマっていたアニメを紹介したのを覚えている。

「ラブライブ!」というアニメだ。既にBlu-rayにもなり、僕は少し遅れてブームに乗った格好だった。「にこちゃんって言う子がね、1番可愛いんだよ」スマホで画像を見せながら、説明すると、おばあちゃんは、うんうんと頷いてくれる。理解してくれているかわからないけど、別にいいのだ。

そしてその年のバレンタインがやってきた。僕はいつものように祖母宅へ向かう。何一つ変わらないいつもの習慣。玄関を開け、リビングに入ればソファーに座っているおばあちゃんが見える。これが不変の光景。しかし、その日は違っていた。

テーブルの上にチョコがある。有名ブランドからお手軽チョコまで。

僕「僕に?」

祖母「こんなババアじゃ嬉しくないかもだけど」

嬉しいに決まっている。
どこで買ったの?1人で買いに行ったの?寒くなかった?
聞きたいことはたくさんあるはずなのに、言葉がノドから出てこない。ろくに感謝の言葉が発音されない。

人って本当に感動すると無言になるんです。

何を言ったのか覚えていないけど、たぶんすごく礼を言ったと思う。そして強烈に覚えているのが、ラブライブ!のウエハースチョコまであったことだ。僕の好きなアニメ。コンビニで売ってるチョコ菓子。わざわざコンビニまで買いに行ってくれたんだ。

覚えててくれたんだ!商品迷わなかった?どこのコンビニ行ったの?

これまた聞いてみたかったけど、聞けなかった。後のことはよく覚えていない。ただ勿体なくて食べられなかった。食べない僕を見て、もしかしたら、おばあちゃん不審がったかもしれない。

あの時のおばあちゃん…どんな顔してたかなぁ

もう祖母はいないけど、未来も含めて僕の人生におけるハッピーバレンタインBest 3に入る日となった。

そして現在、まだラブライブ!のチョコは残っている。たぶんもう一生開封することはない。僕の子孫が僕の棺桶に入れてくれることを、ただ願うのみだ。

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