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smashing! まなざしにとらわるものは

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。そこで週1勤務をしている、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗と経理担当である税理士・雲母春己は恋人同士。そして二人と一緒に住んでいるのは彼の後輩、設楽泰司。

「…よかったまだ誰もいないな」

雲母のペントハウス。夕方早めに帰宅した設楽は、さっき職場である大学病院を出てからずっとあのあたりがタッ…ていた。某六つ子用語ではタッティともいいますね。

先日退職した教授が職場を訪ねてくれて、シフト別でランチに行ったりお茶しに行ったり。サプライズ溢れる一日だった。旅行に行ったんだ、教授はそう言って皆にお土産までくれた。遅いシフトだった伊達が貰ったのは小さなキーホルダー(ハブ)。設楽にはなにやら怪しげな栄養剤(ハブ)。なにこの差。

お菓子なんだってさ。食べても俺何も変わらなかったよ〜。その人は笑いながら設楽に自分の分を勧めてくれるものだから、年長者に弱い設楽は素直にタブレットを口に放り込んだ。効いたら教えてねー。そう言って教授はいろんな人にタブレットを勧めてはやんわり断られてた。

最初は「暑いな」くらいだったのが、帰る頃には部分的に不穏な状態に。体質が合っていたんだろうか。それでも誰にも気取られることなく平静を装い無事仕事をこなした。伊達にちょっかいかけられてそうなる事など日常茶飯事だったため、そんなもん日頃の鍛錬の賜物ですね。タマ、だけに。

とりあえず出しゃいいんだ。そんなもんだ。設楽は手早く服を脱ぎバスルームに篭った。いきなり誰か帰ってきてもここなら問題ない。熱めのシャワーを思い切り浴びながら、設楽は慣れ親しんだ一連の流れを繰り返す。そして何度目かの後、設楽は思った。

あれ、どう考えても精力剤じゃね?

いいかげんのぼせそうになった設楽はざっと湯で流し、脱衣所でバスローブを羽織った。いまこれ以外着れない。暑すぎ。水分を求めキッチンに入ると、今しがた帰宅したらしい伊達が冷蔵庫を覗いていた。

「設楽、どしたんそれ」

さすが目ざとい。いや目ざといとかこの場合関係ないし。合わさってないバスローブの意味とは。

「今日もらったお菓子が」
「皆なんともなかったのに、お前は効きやすいんかねえ」

動物でもそういう子いるもんねえ。のんびり答えながら、伊達は設楽の側までやってきて、足元にしゃがみ込む。ぽたぽたと、設楽の髪から落ちる雫が伊達を濡らす。

「…さて、どうするかは、設楽が決めて?」

助けてやるって言ってんのよ。助けてやる顔ですかそれ。しばらく動けずにいた設楽はそれでも、上向いた伊達の頬に指先を滑らせ、唇の輪郭を確かめるように辿り。

そっと親指を差し込んだ。




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