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smashing! きみおもうこころのそこに

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。その経理担当である税理士・雲母春己。そこで週1勤務をしている、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗は恋人同士である。

今日は遠方での研修で設楽が不在の日。残念だけど、せっかくの雲母との時間を満喫しようと、伊達は夕方から色々と準備していた。夜勤続きの次は半日勤務が続いたりして、シフトに慣れるのは大変だがこんな楽しみもある。

帰ってきた雲母と一緒に風呂に入り、広いリビングの一角を陣取るコタツに並んで潜り込む。ワインなら常温でも全然いいし、肴は生ハムやクラッカー、ピスタチオなんかを揃えた。今日の夕飯がわりは紅鮭や山葵菜のおにぎり。これで当分ここから動かなくても済む。

「すごい、ベースキャンプみたいですね!」
「もうさ、ハルちゃんとここから動かないことにしたんよ」
「フフ。でも大丈夫ですか?伊達さんけっこうお酒が…」

伊達は機嫌良すぎていつものチューハイと同じペースで呑み、すでに出来上がりかけていた。これがチューハイとワインの差よねパーセント。そろそろ僕の膝に?微笑みかける雲母に、伊達は小さく首を横にふる。

「もったいないから、一緒にこう…」

くっついてようか。すんなりとした雲母の指先は、少しだけ冷えたまま。ハルちゃんはお酒呑んでも手足が冷たいんよね。伊達はその手のひらで雲母の指先を包み込んだ。間近で見つめ合った目を伏せて、そのまま唇が重なって。緩く、まろく、溶け合うように。それでもあの、お互いの熱を高め合うような激しさは、今ここにはない。

「…映画はどうですか?僕のおすすめが」
「あ、それいいねえ。どんなん?」

二人きりなのに声を潜めて笑い合って、まるで共有した秘密を守るかのように。少し酔いの回りかけた伊達は、すっかり温かみの戻った雲母の指先が、手元のリモコンを繰るように滑るのを、ただ見つめていた。


ずっとこうしていたい、そう思う心と。
何もかも剥ぎ取って貪りたい、心の奥底の想いは。

いつもこんなにも危ういバランスで、確かにお互いの中に存在するのだ。



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