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smashing! たったふたりなきぶんを

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。


佐久間イヌネコ病院は大きな公園の隣にあるため、この時期は尋常でない落ち葉が雪崩込んでくる。気を付けないと病院の入り口が落ち葉で埋まってしまうのだ。朝夕掃き掃除をしている喜多村は、実はこの落ち葉回収作業が嫌いではない。むしろ積極的に好きである。乾いた落ち葉は注意こそ必要だが素晴らしい焚き付けになるからだ。

焚き火がしたい、と思うと夕方から雨だったり急用が入ってキャンプ場にいけなくなる、そんな感じで未だしっかりと焚き火を堪能出来ないでいる。外の駐車場でちょっとだけ焚き火台で燃しても、なあんか物足りない。

そんな時は以前に結城と小越から誕プレでもらった、灯すと炎が巻き上がるように見えるオイルランタン。上着を着込んで屋上に行き、テーブル横に設置したランタンを眺めながら、プチアウトドアご飯を佐久間と犬のリイコと一緒に食べる。急に言いだしちゃったんで今日はみそチゲと冷凍の焼きおにぎり。それを小さなバーベキューコンロでじっくりと焼く。明日焼こうと思ってたやつも焼いたろか、佐久間が漬け込んだカルビ肉を持ってきた。炭火の上でいい音を立てて焼ける肉は、もはや焚き火がどうのとか全然問題ない。

喜多村はよく佐久間とこうして焚き火だったり炭火だったり、火を起こして楽しむ。穏やかな炎の色が二人を取り巻くのが好きで、暑くても寒くても時間があればこうして屋外に出る。こんな街中でも街灯のないところでは星もよく見えて、この世界でたった二人な気分にも浸れる。そんなことを言ってたのはたしか結城だったが、どこにいても何してても優羽と一緒だから「たった二人」な気分になれるんだ、と。だけど「たった二人」を取り巻くものはずっとお前たちがいいな、なんて、孤独に浸る以前に皆がいて賑やかで楽しいほうがいい、それが前提。

大好きな皆の中にいてこその「たった二人」。そういうわけなんだけど、結局自分もそうなんだろうと思う。いま炭火の上でとうもろこしを真剣に転がしている佐久間を、この上ない幸せな気持ちでもって眺めている、訳なんだが、あ千弦さコチュジャン持ってきて欲しい。御意、どっかのエセ執事みたいな返事をしながら、いまいちムードを解さないこの佐久間のことを、この世界でたった二人、なくらいに一番大事だと思っていたりする。そう、穏やかに言ってしまえば。

喜多村はムフンと鼻で笑って、階下への階段をキッチンに向かって一足飛びに降りていった。




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