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smashing! けいあいをそのせにあずけ

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。


昨日からリビングが動物に占領されている。

年末年始を終え、平常業務に戻ったはいいが急な用事が重なった面々のため、佐久間と喜多村は一時的に家で「ペットお預かり」することに。前もって家中の危なそうなものを撤去し、簡易バリアフリー的になったリビングでは、見知った患畜もお泊まり参加していた。

結城と小越のとこの雄猫1〜6号(大きい)、ウミノ湯・駄菓子屋のスタンダードプードル龍馬(巨大)、常連の牛尾さんとこのシニア猫・点滴の毎日から劇的な回復を遂げたメインクーン染太郎(大きい)、そして佐久間家のオモシロ中型犬リイコ(やや大きい)。

「密度!おまえらコタツの密度考えて!」

コタツの中には何故か飼い主勢の結城卓と小越優羽も入っている(フツーに泊まり来た)。いやいくらちっちゃいものクラブだからって。喜多村は隅っこに無理くり入れたはいいが両側を猫で埋められている。一体どの猫のどの胴体かわからない。

「ご飯さ、串おでんでよかったか?」
「俺と優羽は全然いいです鬼丸ママ」
「ありがとう鬼丸ママさん」

動物がこんなにみっしり家の中にいるなんて、実家の寺にいた時みたいだ。佐久間は笑いながらキッチンに向かった。その後ろを龍馬とリイコが恭しくついていく。茹でたなんらかの肉にありつけるのを知っているのだろう。

「染太郎、重い…体よくなったって牛尾さん喜んでたよね」
「牛尾さんちに俺が点滴に通ってたけど、途中から元気なったんだ。春先毎日通ったからなー」

喜多村がムフンと笑う。一方、仰向けでコタツに寝そべった結城と小越は腹の上をメインクーンの染太郎に占領され、コタツの温みと佐久間家の「実家み」に、既に意識を手放そうとしていた。あかんわ、眠。あかんわ、腹へる。喜多村は流石にキツキツなコタツから這い出て、キッチンの佐久間のサポートに。いろいろ運ぶものあるからちょっと行ってくるわ。お前らちゃんと起きてないと串おでん食われるぞ、俺に。

一瞬異世界まで飛んでピンクケモリンになっていた(気がする)結城は、おでんのいい香りで覚醒した。気付いたら全員もう食べてる宴が始まってる。慌てて起き上がり箸を掴むと、目の前に好物のタコの刺さった串おでんを、ちゃんと佐久間がよそってくれていた。

「よかったあタコ残ってた!」
「いっぱいあるからゆっくり食べなよ卓」
「油断するとタコはいなくなっちゃうんだもん」

その言葉哲学的なやつな。佐久間が席を立つ。密を避けたがる犬勢がローソファーで寛いでいる(伊達の定位置)。茹でただけの牛スジとタラをボウルに入れてやると、龍馬とリイコは嬉しそうにぱくぱくと食べた。いいなあよかったなリイコも龍馬も!結城と小越がご機嫌で声をかけている。食べさせながらも佐久間はいろんな角度で二匹を無意識にチェックしているのだ。何かしらの違和感はないか、を。

「俺らんとこにくれば、みんな元気にしてやれるからな」

リイコと龍馬の頭を撫でながら佐久間が呟く。泣いてんのか笑ってんのかわかんない、それこそ伊達のような表情で、喜多村が佐久間の後ろで棒立ちになっていた。

「?千弦、チューハイか?」
「なんでも、ない」

佐久間に敵わないのは、こういうところだ。そして離れられないと感じるところも。少しだけ鼻を啜りながら喜多村は気付かれないよう、佐久間の背にそっと顔を埋めた。




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