見出し画像

smashing! おれのふたりのそんざいに

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。そこで週1勤務をしている、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗と経理担当である税理士・雲母春己は付き合っている。そして二人と一緒に住み始めたのは伊達の後輩で恋人、設楽泰司。


紙の仕事を持ち帰るっていうのはあまりないんだけど、たまにこうやって持ってきちゃうんよ。仕事っていうより、パソコンがあんまり得意じゃない上司さん用。差し入れなんかも俺と設楽には特別に多めにくれたり。入った頃からずっとよくしてくれてねえ。小鳥遊さんていうんだけど、打ち込んだデータを紙にしてファイルしといてあげると喜ぶんだ。

さて今日は俺の平屋、誰もいないっていうね。設楽は夜勤、雲母ハルちゃんは夜遅くなるって。一人だとご飯もついつい簡単なものにしがちだけど、ウチは冷蔵庫、冷凍庫にみっしり、凝った料理が鎮座してんのよ。チンして食べるだけになってるからそりゃ便利で助かる。美味しいし。手突っ込んで適当に取り出したやつを食べよ、って出してみたらこれ、やだ自分で作ったやつだったわ(キムチチャーハン)他のにしよ。次に取り出したのは、鶏肉飯だなこれ多分設楽の。これでいいや。

チンして縁側で食べようかな。いい天気、夕方だけどそんな寒くないし風もない。縁側に持ち込んだ簡易テーブルに書類広げといて、その横で鶏肉飯を食べる。設楽の作るやつはあんまり甘い辛いがない分、スパイシーで香りが立ってる。

ハルちゃんにしろ設楽にしろ、まず俺の好みで統一してくれるから全部好物が揃ってる。自分の好きなやつも作って?そう俺が言うと二人してニヤリ笑いで、あなたの好物は僕たちの好物ですよ、とか返ってくんのよこれのれんに腕押しのやつ。ああそれでも嬉しいし美味しいよ?以前は人と暮らしたり合わせてりなんて考えもつかなかったけど、そういうタイミングが来たらちゃんと「そう」なるように図られてるのかもな、そう思ったりする。

暗くなる前に書類を片付けてチェックして、ちゃんとナンバリングも振って。ああこれなら見やすいかねえ、ざっとまとめて今日の分は終わり。案外早く出来た。テーブルと食器も片付けて、なんか食い足りないから台所へ。今度は何が引けるかな、怪しいクジ引きみたいになってきたわ。中見ずに手突っ込んで取り出したのは、これ、あれだわキンパぽいわ肉入りの。正円に散りばめられた具の造形の完璧さから言って、紛うことなきハルちゃん作。

ここはやっぱりマッコリが呑みたいんよ。と思ったらちゃんと冷蔵庫に入ってたわ神かよ。チンして居間にマッコリと一緒に並べて、丁度いい温度に解凍できたキンパを頬張る。これもほんとに美味しいわ。

二人とはこの先も一緒、それ以外考えもつかないしありえないと思ってる。でもあの小鳥遊さんはあと数年したら退職する、みたいなことを言ってた。好きな友人、気を許した人が自分の側からいなくなると言うのはきっと、自分の半身を削がれるよう。大袈裟だけどね。実際痛みは伴わないけど心の底の何かが、ずっとひりつくような気がするんだ。

とりあえずハルちと設楽がいてくれてよかった、俺さ毎日こんなこと言ってる気がするけど本当なんよ?俺のこの、少し異様ともとれる「寂しがり」を、なんでかな、あの二人は何もかもお見通しなのかな、そんな気がしてならないんよね。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?