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smashing! あたたかさにほどけて

誰もいないと思っていたら、伊達さんがソファーに座ってなにやら。おかえりい。のんびりと答える声が優しい。何をしていらっしゃるのかと思ったら、膝に抱えたボウルには緑の豆。枝豆ですか?覗き込む僕の目の前で、手のひらにのっけた翡翠を転がす。グリーンピースね。佐久間んとこでもらったんよ。

ボウルの中、丁寧に取り出された緑はぴかぴかしていて、一体どんなお料理になるのかとても楽しみ。不意に、伊達さんの手が伸びて僕の頬に触れる。ハルちゃんなんか元気ないねえ。どきりとした。今の今まで僕も忘れていた。今日はとても心のしんどい一日だったこと。だけど誰かに何かされたわけではないし、お仕事もとても順調に進んで早めに片付いた。ただ、微細な違和感。訳のわからない靄が一日中ずっとひっかかっていて。

伊達さんは僕のメガネをはずして、そっとテーブルに置く。腕を引かれるまま隣に座った僕を緩く抱きしめた。こうしてたらちょっと楽になるかもね。強張っていたらしい体から徐々に力が抜けて、伊達さんの肩に凭れる。そうそう昨日ねえハムスターの飼い主さんがねえ。伊達さんのお話は面白可笑しくて、僕はつい引き込まれて笑ってしまう。優しく背中を摩る伊達さんの手。

こんなに他人の側が安心できるだなんて、僕は知らなかった。家族とあと白河先生、彼らの他に僕を受け入れてくれる人。もう他人とかじゃないんですがそれでも。低く響く伊達さんの声音が、しっかりした体幹を持つこの人の温かな体が、僕を心の底から癒し、こんなにも力を与えてくれる。

ね豆ご飯作ろうハルちゃん。じゃあお手伝いします。着替えておいでよ、伊達さんはボウル片手にキッチンに。伊達さんって笑うと目がなくなっちゃう時があって、まさに今なんですけど、その顔が僕は、ね。

どんなキメ顔より、目と眉近いフェイスより、大好きなんです。



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