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smashing! それをまるっとつつみこみ

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。そこで週1勤務をしている、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗と経理担当である税理士・雲母春己は付き合っている。そして伊達は後輩の設楽泰司とも恋人同士だ。


「それにしても伊達さんてクジ運いいですね」
「へぁ、なんかね、ハルちゃんにどうかなあって思ったら当たったんよ」

雲母のペントハウス。リビングに置かれたのはオットマン風のフットマッサージャー。未使用時はフタを閉めてしまえばソファーの群れに紛れて邪魔にならない。雲母はこれを殊の外喜んで、風呂上がりには必ず長い足を入れて悶絶?している。

「いいなあ」
「設楽もどんどん使っていいんよ?何遠慮してんの」
「オレも欲しい」
「足もみ機い?」
「違くて、これ、このかんじのやつで…」
「 」

かくして、設楽の愛読している「ぱっと見ワルいおじさんが載ってる」雑誌が、伊達の目の前に広げられたのだった。愉快犯。

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「クジやってなかったら意味なくない?」
「クジでなくても、結果オーライなんで」

珍しく設楽が強請ったもの。それは水着。半ば強制的に連れてこられたセレクトショップ。メンズの水着って地味よね。そんなイメージを覆すかのようなカラフルで豊富な品揃え。きわどーいこんなん誰が買うのよねえ。日常会話でさんざディスってた自らを反省する伊達。すんませんいたわそういう子ウチにも。

「伊達さんは、こんなのが」
「待って俺も着るのお?」
「今度の慰安旅行熱海ですから、全然持ってけますよ」

オレはこれがいいです。設楽が選んだのはお値段こそやーんな感じだが、なんかいつもの迷彩的な。おまこんなん持ってたやん他の柄にしたら?ちょっとずつ違うんです。思いの外強く出られたので渋々納得する伊達。設楽セレクトの伊達用水着も持たされ、レジに向かおうとした。

「伊達さん、雲母さんのも見ましょう」
「…ハルちゃんのはいいの」
「?ここだと見つからなかったですか?」

伊達はこれ以上ないくらいのキリリ顔。目と眉近いな。このシリーズで一番よく使われるフレーズだけど。伊達は設楽に向き直り、静かに言い放った。

「公共の場に出せるやつじゃないんよ」
「…御意」

設楽はなんか全て悟るしかなかった。確かに、雲母さんの半裸を海水浴場などに。プールなどに。エロいとかそういう次元じゃなかった。まんまあれだな、海水欲情な。洗脳されるほど職場とかで延々聞かされてたギャグを、まさか自分で反芻する日が来ようとは。

「そだ!ウチとかプライベートビーチとか用のやつ、選ぼうかね!」

伊達の表情がぱぁっと明るくなり、設楽の手を取って売り場に引き返す。ハルちの水着しましまのワンピースみたいのどうかな、などと意味不明な受け答えに、それじゃなんだか囚人みたいじゃないですか。それが狙い。伊達は小さな声で囁いた。

「そもそもそんなん、売ってないですから」

やっぱ全部設楽に選んでもらお。伊達は嬉しそうに目尻を下げた。




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