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smashing! こううんのあれをおすそわけ

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。


今日は日曜なのにこんな朝早く目が覚めてしまった。喜多村は横で爆睡している佐久間を起こさないようにそっと部屋を出、冷蔵庫からペットボトルのミルクティ(これしかなかった)を取り出し、リビングに。すると何やら隅の方に気配を感じる。生き物の。犬のリイコは涼しくなってくると外で寝たがるから、今はここにはいないはず。

喜多村は目に見えない何かしらがあまり得意ではない。しかし時刻は早朝、既に夜は明けている。従っておばけアワーのあれやこれやではないため、全然大丈夫なやつ。大丈夫なのか?喜多村が気配のする方を見ると、奥の方のローソファーの下あたり、何かが丸まっている。側まで行きそっと覗き込んだ。あもう見覚えありすぎるわ。そこにいたのは伊達雅宗。ソファーからずり落ち床ですやすやと寝こけていたのだ。

「…どこで寝てんだ雅宗先輩」
「昨夜さあ遅くにこっそり来ちゃった。今日ひとりでつまんなかったからさあ」

昨夜喜多村たちが寝静まった時刻、皆に渡されている合鍵でお邪魔した伊達は、そのまま風呂入って持ってきてた部屋着に着替えて冷蔵庫からチューハイときゅうりの浅漬け失敬して配信見て寝た、らしい。

「え音とか全然しなかったけど」
「ゆったでしょ、こっそり来ちゃったのよ。テレビはねえこのイヤフォンで」

夜中に皆を起こさないように映画観たりすんの。けっこう気遣うんだな雅宗先輩。それぞれの家庭事情により人は進化したり退化したりするものだ。伊達の場合はもともとがけっこうな気遣いをするタイプなので、それがさらに獣神化した感じなのかもしれない。

「あ、獣神化ていえば雅宗先輩出た?俺さ全然6出なくて」
「それ!俺最初の十連で全部出た欲しいの」

なにその神がかったガチャ運。雅宗先輩そういうとこあるよなあ。こう言う時身内に当たりが出てるとそれで満足する不思議。お祝いに朝飯にしようか。伊達に持ってきていたペットボトルを渡すと、ここにあったんね俺のミルクティ。見ればボトルに「まさむね」と書いてある。なんでそんなんがウチにあるんだ。喜多村は笑いながらキッチンに向かった。

「あれ?ちぃたん、佐久間は?」
「そういや鬼丸まだ起きて来ないなあ、まそのうち来るだろ」

日曜くらいゆっくりさせてやりたいしな。喜多村は手際良く目玉焼きをターンオーバー、スパムのスライスを炙り、ハードブレッドのトーストを合わせる。野菜は昨夜のサラダでいいか。マカロニにトマト。いい匂いに釣られてか、寝室から佐久間が出てきた。おはようだ!リビングに雅宗先輩いるぞ。寝起きの佐久間の頭上には???が飛び交っている。うん、俺も最初何事かと思った。

「おはよお佐久間!昨夜からお邪魔してるんよ」
「声掛けてよおー伊達さん!なんなら一緒に呑みたかったのに」
「いや流石に丑三つ時だったしねえ」

お互いふにゃふにゃの顔と似たようなくしゃくしゃの髪で、佐久間と伊達が笑い合っている。うん、いいななかなか。朝からこういう可愛いものを拝めたのは日頃の行いがいいせいだな。喜多村はムフンと鼻を鳴らし、トレーに朝ごはんを載せリビングに運ぶ。あとは数本のビールも。

伊達と佐久間がリビングで携帯を見せ合っている。海賊さんのコラボをやってるアプリゲームは佐久間も大好きで、喜多村と同様あまりガチャに恵まれなかったせいか、伊達の携帯を触らせてもらっている。おーい飯持ってきたぞ!喜多村がテーブルに皿を並べていく。

「伊達さん昔からクジ運とかいいんだよね」
「それね、最近更によくなる方法見つけたんよ」
「えなに」
「これこれこの待受に」

喜多村と佐久間は固まった。伊達の携帯の壁紙に微笑みの雲母ハルちゃん。それはいいとしてそのお姿。いろんなアプリの影に隠れてはいるが、どうみてもハ…ダ…。

「これにしたらまーガチャはあれでしょ?そんでクジ当たるし道路はすいてるしそれに」

お前らにもあげるねえハルちの。言うが早いか共有のアレでもってあっという間に二人の携帯の壁紙に肌色みしかない美麗ハルちゃんが鎮座。ああ、チンだけに。三台を並べて「可愛いなハルちゃん〜」伊達はうっとりと眺めながらもりもりと朝ごはんを食べる。この人ら食欲とセーヨクやっぱ混じってるわ。佐久間と喜多村は目と目で示し合わせ、そっと例のアプリを起動させるのだった。




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