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smashing! かれらとすすむそのさきに

大学付属動物病院獣医師・設楽泰司。週一で佐久間イヌネコ病院に出向している理学療法士・伊達雅宗は彼の先輩で恋人。伊達は佐久間の病院の経理担当である税理士・雲母春己とも恋人同士だ。

年末は忙しい。どんな職業もそうだろうけど、オレの動物のお医者さん業のほかにも実家からけっこうな数の呼び出しくらう。それが年末。

月初めにけっこうな連勤だったせいか、早めの冬休みみたいに休みが取れた。クリスマスやなんかに向けて作り置きとか支度しようと思ってたら、恒例の実家からの指名が入っちゃったわけだ。俺も手伝おうか、伊達さんはそう言ってくれたけど、伊達さんが一緒だとオレのいろんな箇所が滾ったり滾ったりするわけで、そう説明したら、ちょっと引かれてたけど納得してくれたみたいだ。

いつものように掃除とばあちゃんの畑の手伝い。今は白菜が旬だから、鍋にすると雲母さんが喜ぶな、少しもらっていこう。こういう得もあるから楽しみなんだ。掃除やら家事は嫌いじゃないし、何より皆喜んでくれる。畑作業はなかなか力が要るから、オレみたいのが手伝えばばあちゃんも助かる。

誰かのヘルプに入る、的な行動はオレに向いているんだろう。そう思ってきたから、何をするにもまず周りを見て、立ち位置を読んで、それから必要に応じて動く。そんな昔からの癖。伊達さんと会った頃に言われたのは、お前の好きに動けばいいのに、って。

好きに動く、これまで自分の意思で選んできたつもりが、ただ「選択肢を選ぶだけ」になってた。ちょっと驚いた。そんな意味合いにも取れるのか、会って小一時間話しただけの先輩に言われたこと。それが伊達さんを何よりリスペクトする理由のひとつ。あの人には、オレが、見えるんだ。

土だらけになった軍手を外して、水道の水で洗う。こんなに冷たいのに手の真ん中は温かなまま。自分がやりたいと思ってする事は、絶対に体を冷やしたりはしない。オレはそう感じている。畑で採れた白菜も水菜も、種を蒔かれたからここにある、でも種から「出よう」と思ったから、こんな旨くなったんだ、そうだな。

存在感は消すよりも前に出していって、口数は少なくても目で話す。よく言われるオレのニヤリスマイル、元々は伊達さんの言葉から派生したんだな。今思うと。そんな昔のこと忘れちゃったん、そう言われるのも分かってのこと、それでも時折、酒の力を借りて思い出したように伊達さんに話をする。オレが取り戻した「自我」のようなものについて。

尻ポケの中で携帯が震える。やっぱそっち行っていい?伊達さんのメッセージに頬が緩む。ああやっぱり、この人はこうしたいと思って行動している、そしてそれがオレに向けられたベクトルなら、オレは喜んで受け入れていい。

夕飯いい肉ありますよ冷蔵庫に。オレのメッセージに、御意、だと。それはオレのやつですね御意。雲母さんと一緒にここに来てくれるらしい。そう、同じ方向に向かって進むオレの「家族」は、今や二人もいるんだ。


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