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smashing! はらたまきよたまののちに

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。

寝ても何しても疲れが取れないこともある。喜多村と佐久間は最近、ちょっとだけ疲れが溜まってるかな、そう思うことが増えた。ちょうど家に昼ご飯を食べに来ていた伊達が「あれよほら、そろそろ疲れ取れにくくなるゾーンかもよ」などと言い残し、迎えに来た雲母とイチャイチャ絡み合って帰っていった。これだから20代寄りってのは。

「ちょっと厄とか溜まってるんかもなあ」
「千弦、ちょっと昼終わったら出ようか」
「?なんだ?銭湯とか?」

手っ取り早く厄を落とすなら水辺、一番いいのは海だ海。佐久間と喜多村は午前の診療を終えた後、二人で海を見に出かけることに。病院から数十分のところにある、海が見渡せる堤防沿いに車を停め二人は海沿いを歩く。

「うわーけっこう寒…くはないな!」
「…今日天気良くてよかったなあ」

太陽が輝いていても、海を臨む堤防の上はかなりの寒さ。それでも吹き抜ける潮風を全身に受け、二人はだいぶすっきりした表情になっていた。塩と水と日光、それでほぼ全ての厄は取れてしまうのだと父や兄に聞いた佐久間は、昔からよく一人で海に来ていた。しかしこうして、喜多村と海を見にくる日が来ようとは。昔の自分は想像もしていなかっただろう。

「鬼丸のおかげでサイキックアタックの気配も消え失せた」
「だろ?厄落ちると疲れ取れて、しかも二枚目になるんだぞ」
「…じゃこれもうすっかり取れた?」
「取れた取れた。すっごい二枚目に…」

周りに誰もいないのをいいことに、佐久間に軽く音を立ててキス、喜多村はニヤリと笑った。未だこういった突然巻き起こる系のチューには免疫のない佐久間。誰もいないのにねえ。いちいち焦るその顔を両手で挟み込んで、喜多村は更にもう少しガチめのやつをお見舞いしてやった。

「厄落としには、チューも効きそうだよな!」
「…それは千弦だけかもなあ」

えー!雅宗先輩んとこなんかぜってーそうだよ俺見たもん!一体何を見てそう言い張るのかは全くもって不明なのだが。帰りなんか夕飯買って帰ろっか。一人で来ると厄落としだけで終わってしまうけど、いまは二人で楽しい寄り道なんかも加わる。遠くの海面に光る白い波。佐久間は擽ったいような思いが湧いて、どうにもこの気持ちを持て余しそうになる。

重かった「厄」を払い続けたその先の人生に加わった、目の前で嬉しそうに笑うこの美しい男こそ、自分が何よりも離したくないもの。

佐久間の手を強く握って堤防を歩いていく喜多村の、足取りはいつもよりも遥かに、軽やかになったように思えた。



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