見出し画像

smashing! なかったことになればいい

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。病院の経理担当である税理士・雲母春己。その雲母の元後見人はフリー弁護士・白河夏己。

年に数回の旅行やイベントを白河と共に楽しむ、という会合。それは主に同業の大学時代からの友人達と時々イレギュラーの「白河推し」数人で構成されている。表向きは楽しい仲間内の集まり。
実は「白河のテーソーをお護りする」部なんです押忍。

自分で白河の親友と言い張る猿渡一郎を筆頭に、自称親友の二人目は虎渡二郎、そんな二人を生温かい目で見守る頭脳派・馬渡三郎。ちょっと全員出来すぎた名前だが本人たちは至って自然体だ。身長は揃って180超え。長身痩躯でそれぞれが和風顔でメガネ男子なもんだから、正直モブにしか見えないのが難点と言えば難点。

バレンタインで浮かれる街中、男だらけのお食事会が催されているのは白河のマンション。偶然の出会いや告白絡みのイベントから白河を護るため、年末年始や可能な限りの祝祭日等、白河と共に過ごすために猿渡たちは奔走している(仕事は?)。

「毎年ありがたいんだが、お前達も忙しいだろう」
「そんなわけない俺は暇でしょうがないし」
「ナッチと会ってたほうが俺らは楽しいし」
「(お前ら本業は)」

浮かれる猿渡一郎、虎渡二郎を尻目に、馬渡三郎は少しばかり緊張していた。何らかの予感が数日前から脳裏を離れない。いつものメンバー、いつもの白河ナッチ先生、何だろう、何が違うんだろう。馬渡は白河に酌をしつつ、それとなく話を持ちかける。

「そういえば最近、浮いた話なんかあります?」
「いや、そういうのじゃなんだがな、ただ…」

【【【待て何その「ただ…」てのは!!!!!!】】】

頼むから【大切な皆さんへ】とか不吉なワード投下しないでええ!ナッチがツイッタでんなことしたら俺もお弁護士も人間もやめるううううう!!年末年始の休暇取るために不眠不休で案件片付ける俺らの身になったことがあるかあああ!ナッチと旅行行かずしてなんの人生かあああああ!三人三様の無言の激情が垂れ流される中、流石の白河も空気を読む羽目に。

「ツイッタとか聞こえたが、大丈夫だ俺はSNSはやらないから」
「(そこじゃないし)」
「…てかナッチさ、何があった?」
「何もないぞ?ただな、俺んとこのハルがな、こんなメールをくれたんだが…」

『僕のパートナーのパートナーである設楽泰司くんのお兄様なのですが、先日お仕事でお会いした際とても感銘を受けたので、是非もう一度お会いできたらと仰っているのですが』

「ナッチ、設楽くんのお兄ちゃんとやらと仕事で会ったの?」
「それがな、全然覚えがなくてな」
「(あこれ大丈夫かもしれない)ハルくんが連絡くれたんなら変な人じゃないね!」

それにしても覚えてないとは。馬渡は再度白河に確認するも、覚えてないの一点張り。その仕事のことは覚えているが、数人スタッフもいたため、どれが設楽の「お兄ちゃん」なのかが全くわからなかったというのだ。顔とか設楽くんにそっくりって書いてあるけど。白河は一生懸命思い出そうとするが、既に一升を空けようとしている今、思い出す記憶も曖昧でどうにもならない。

『是非もう一度お会いできたらと仰っているのですが』

このまま流してしまえば何も無かったことになるかもね。それは馬渡の心の隅に追いやられ、いつのまにか他の話題にすりかわる。馬渡たちはウーのバーで料理を追加、せっかくのバレンタインにと買っておいたチョコレートケーキも出してきた。いつものように盛り上げてくる三人に乗せられるように、白河も楽しく相槌を打つのだった。


この記事が参加している募集

#スキしてみて

525,563件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?