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smashing! うみのかなたのあじわいは

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。

近隣の商店街の外れに位置する銭湯ウミノ湯。こぢんまりとしているが、中に入っている店舗も設備もなかなか侮れない。そのウミノ湯の店主は渋い鯉口シャツにダボパンツが標準装備、長身痩躯の松田系の美形。羽海野真弓。そして地球の真ん中の線辺りから、最近十年ぶりに帰国したリウ先生こと、羽海野の長い付き合いの年上の恋人・九十九龍一。

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「これは何を作ってるんだ?」
「ソブラサーダ。野菜のパテ、ていうかペーストだな。戻したサンドライトマトと松の実とあと…」

九十九は昔から肉が好きだった。帰国してからも肉類を喜んで食べていた。しかし最近になって、肉を食べる量が落ち全体的にあっさり系に。そんな九十九の様子を心配したのは羽海野だ。ただでなくても九十九はかなり年上で、好きなものを好きな時に好きなだけ食べる。あまり自分の身を気遣わない困った「兄さん」だからだ。

「向こういたとき肉ばっかで飽きちゃって。そしたら同僚のスペインの子がベジタリアンでさ、これ教えてもらったんだ」

漢方医よろしくすり鉢でゴリゴリ。アーモンドにクミンやパプリカも放り込む九十九。

「…これ、スパイスが効いてて美味いな」
「でしょ!バーニャなんとかより美味いと思う!」

バケットに付けたりして食べるんだ。九十九は嬉しそうに羽海野にかの国の話をする。目の前に広がる果てない水平線。九十九の見て感じた世界はいつも自分とともにあったのだ。九十九の見るもの、味を感じるもの全て。数千キロの距離を超えて。インド洋に朝な夕なに登っては沈む太陽までもが、羽海野には見えるのだ。

「でも、ベジタリアンてのはさ、つまんないかもね」
「?なんでだ?」

制限が多すぎると、美味しいものに会えなくなるだろ?肉が重く感じるくせに「日本のカルビうっまい」とか全くセーブもしないで食を楽しむその癖も。

羽海野にとっては九十九の全てが「スパイス」なのだ。




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