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smashing! にくをへらしてにくをくう

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。10日までは絶賛冬期休暇中です。

「そんじゃリイコ、散歩いこっか」

いつものようにリイコに散歩コースを先導されながら、佐久間は色々考えを巡らせていた。主に今日の夕食何にしよう、患畜に喜ばれるおやつはどのメーカーのものが安全か、そして、なぜ恋人の喜多村は最近裸族なのか、等。

いま、季節は冬。そりゃもう真っ只中。WINTER!! it's showtime!! じゃなくて、家の中は空調が効いてはいるが20度弱だ。それなのに喜多村は平気でうろついているのだ。裸族といっても流石にパンイチではあるが。確かに佐久間も、兄の達丸和尚が気を利かせてあったかグッズを送ってくるほど気温に無頓着ではある。だがわかんね。パンイチ理解できね。ぶつぶつと呟きながらふと気付けば、いつもの散歩コースとは全く違うルートをリイコは目指していた。あれ、俺どこで道間違えた?

公園の並木を越えた車道側、佐久間達のよく利用するコンビニの方からなんかいい匂い。この時期、コンビニっていったら大抵おでんがメインじゃないですか。それなのに何故か「焼き鳥ていうか焼いたもつ」ぽい香りが漂っている。見ればコンビニ前駐車場には見慣れないキッチンカーが停まっていた。「モツ焼き」ののぼりが寒風に棚引く。これは予想外のやつだなあ。

「…久しぶりに “とんちゃん” の匂い嗅いだわ…」

佐久間はフラフラと引き寄せられるようにキッチンカーの側に行き、簡易ベンチに座っていつのまにかもつ焼きとビールを手にしていた。あれ、俺どこで道間違えた?足元で「茹でただけのモツ」を皿に入れてもらって一心不乱に食べているリイコ。オーナーはきっとワンちゃん好きなんだろう。

「こないだはどうも!ワンちゃんの茹でもつはサービスです!」
「あ、ハイ!ありがとうございます!」

佐久間を間近で見たそのオーナーは人違いでしたと平謝り。大丈夫ですそれ多分ウチのスタッフです。リイコの頭を撫でながら佐久間は笑って答えた。伊達さん絡みだなこれ。たまにリイコの散歩を頼まれてくれてる伊達らしいハプニング。安全なおやつ選んでくれてる。嬉しくなった佐久間はもつ焼きを数人前テイクアウト。お腹いっぱいになったらしいリイコが、満足げに鼻を鳴らした。

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「フッ…フッ…おかえり!フッ…」

佐久間がリイコとともに家に戻ると、喜多村がパンイチのままでなにやら腹筋のような事をしている。家の中で汗だくて。どんだけやってたの。満腹のリイコはそのまま定位置である浴室前のバスマットへ。すると佐久間から漂う炭火焼スメルを喜多村の嗅覚が感知した。

「あいい匂いする…うわっもつ焼きだもつ焼き!!」

喜多村は佐久間からレジ袋を受け取り、中を確認して歓声を上げた。これって前に雅宗先輩がゆってたやつな!嬉しそうな喜多村に佐久間が問いかける。

「てか、なんで最近千弦パンイチなの?」
「…うん、鬼丸なら気付いてると思ったけど」
「ん?」
「俺ちょっと…太ったじゃんね?人目に晒すと痩せやすいっていうから」

喜多村には喜多村なりのこだわりがあるんだろう。いつも見てるし触ってるしアレだけど佐久間には全くその差がわからない。厚着してる分じゃないのか?呑気な佐久間に食い下がる喜多村。

「…鬼丸、お前もけっこうきてないか?」
「…や、大丈夫…や思うけど…」

何枚も重ねられた上着やジーンズをめくって真面目に確認する佐久間に、喜多村がつい吹き出す。大丈夫鬼丸は逆にもっと太らないとだ。丸出しになった佐久間のお腹を再びしまってやりながら、その頬を軽く啄んだ。

「よしダイエット完了!いまから俺は好きなだけもつ焼き食って呑む!」
「おま何か着ないと風邪引くやろっ」

そのへんに脱ぎ散らかしてあった喜多村の服をかき集め、今度は佐久間が着るのを手伝ってやる。上から眺める鬼丸もなかなかいい。一生懸命着せてくれようとする佐久間に軽くセクハラ発言をかましつつも、まだ温かいもつ焼きのレジ袋を、喜多村は大事そうにそっとリビングのテーブルに乗せた。





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