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smashing! あめのおととフィルターと

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。そこで週1勤務をしている、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗と経理担当である税理士・雲母春己は付き合っている。そして二人と一緒に住み始めたのは伊達の後輩で恋人、設楽泰司。


目が覚めたら一瞬、ここが何処だかわからなくなってた。ああ、飲みすぎた翌日に雲母さんちなのか伊達さんちなのかと、いやそういうのではなく、全く覚えのない内装で。薄暗い室内、隣同士並べられたベッドは家のと全然違うやつ。隣のベッドに見え隠れする茶色頭、伊達さんの旋毛が見える。潜って丸まってるらしい。

昨日は台風の影響で雨がひどくて、夜勤明けで一旦近くのビジネスホテルで泊まることにした。俺らのことを雲母さんが心配し、速攻手配してくれたのだ。雨足が弱まってから戻れるように二日間押さえてありますから。雲母さんの抜かりない気遣い。おかげで夜勤終わったその足でここにチェックイン、飯食って風呂入って何も出来ずそのまま落ちたんだっけ。

伊達さんを起こさないようにそっとベッドを出て、大きな窓のカーテンの隙間から覗くと、あいかわらず外は大雨。もう少しここにいた方がいいな。そのまま風呂に向かう。強めの水流が叩きつけるように皮膚を弾く。ああ、この水圧も最高。ホテルの備え付けのこの、パジャマ?寝巻き?これって病院の検査で着るやつみたいだな。下だけ履いて部屋に戻る。

備え付けの冷蔵庫、ここ来る途中で色々買っておいたやつも入ってる。ペットボトル数本と、夜食用にサンドウィッチとか。そういや食わずに爆睡したんだった。ソファー座ってテレビつけて。サンドウィッチ食ってたら伊達さんが起きてきてた。あーよく寝たあ、腹減った。冷蔵庫から出しておいたサンドウィッチ、伊達さんのフルーツサンドを差し出すと、嬉しそうに口を開けている。御意。取り出してそのまま口に運んで差し上げる。美味そうに食うこと。

風呂入ってくるん。鼻歌混じりに伊達さんは風呂に向かった。伊達さん出たらちゃんと飯食いにいくか。オレも洗面所で歯磨き。設楽はもうフロ入った?伊達さんが頭泡だらけでドア開けるもんだから、入りました大丈夫それより泡が。そっと閉めようとするドアに手をかけて。

目に泡入って痛いから流してえ。

まあそういう流れですよね御意。下だけの寝巻きをパンツごとスポーン脱いで、浴室に滑り込んだオレに頭を差し出す。手早く泡をシャワーで流してやって、目に入っちゃったやつ痛いですか?ちょっと赤くなってる。上向けた顔にそっと湯をかけてやると、伊達さんが唇だけで。

舐めて?

細心の注意を払いながら伊達さんの「目」に舌を這わせる。シャンプーの泡を取り除くように。それとは正反対の高揚した意識が、身体中の感覚を鋭くさせてく。いつのまにか目じゃないとこまで辿り続けるオレの舌は、伊達さんのそれに捕まって絡め取られて。勢いよく落ちてくるシャワーの雨の中で、儀式のように続いていく。

防音のはずなのにずっと雨の音がするのは、このシャワーの音とあと、ノイズ全消しで目の前のあんたに集中したいオレの、きっと心の中のフィルターが同調しているんだ。





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