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smashing! わかちあいゆずりあい

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。そこで週1勤務をしている、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗は、経理担当である税理士・雲母春己そして後輩の設楽泰司と付き合っている。

暖かな日曜、伊達の所有する郊外の平屋。久しぶりに帰宅した伊達と設楽は、早朝から全力で家中の掃除や小さな菜園の手入れを済ませ、昼過ぎには全てピカピカに。真冬なのに汗だくて。昼はあれよ、マックなドナルドのビッグなやつを一人三つですねそんでポテトは当然L。ケータリングしたハンバーガーを設楽はほんとに三つ平らげた。問題ないです若いんで。

夕方ここに到着予定の雲母のために、夕飯は鍋、それも奮発しててっちりに決めている。さっさと汗流して支度して一杯ひっかけよう。二人は揃って風呂へ向かった。普段なら汗の匂いにムラつくのは伊達の方なのだが、今日に限って設楽が伊達の後ろ頭に鼻を突っ込んだまま動かない。ゴリゴリ押し付けられるあの辺の圧に伊達は仕方なく折れた。いいけど軽くだからね?軽くと言って聞き入れられたことはないのだが。

風呂から上がって居間のコタツでまずはビールをひっかけて。くっそ足ガクガクすんのよお前支度してよね。伊達のブーイングを設楽の唇が封じ込める。音を立てて戯れてるうちに、徐々に設楽の体から力が抜けて、滑るように畳に横になった。掃除もえちも全力な設楽は、こうして突然落ちることがある。

「なー設楽あ!てっちり下拵えええ!あと俺にチューハイ!」

完落ちしたアゴヒゲ君はピクリとも動かない。静かな地響きのような鼾。伊達はちょっと困った。設楽は一度眠るとまず起きないからだ。無理くり起こすってのも野暮だしねえ。ただ今回、伊達には秘策があった。最近仲良くなった設楽家の末弟・泰良。設楽よりも5つ下のその泰良に教えてもらったとある「呪文」を設楽の耳元で囁く。

「…ニイちゃん、おしっこ…」

何をしても起きなかった設楽の目が突然開いた。伊達の手をしっかりと掴むとゆっくりと起き上がる設楽。待って待ってごめえん俺。ようやく声の主が伊達だと気づいた設楽は、ほっとため息をついて座り直す。

「あーよかった…あいつなら漏らしてるとこだった」
「ニイちゃん♡泰良くん可愛いねえ」
「タイラに聞きました?」

ニイちゃんが起きない時は言ってみてください。弟の泰良のことを、忙しかった両親や兄たちにかわり、ほぼ設楽が面倒を見ていたのだ。この「呪文」を泰良はよく、一度眠るとなかなか目覚めない設楽に、悪いとは思いながらも使っていたという。

「てっちりの支度の前に伊達さん…」
「あ、お前なんなんもう出ないって!」

ションベン以外のもんも全部吸い出してあげます。そう言って伊達を押さえ込んだ設楽は、ふと力を抜く。顔じゅうに???を飛ばす伊達の鼻先にちゅ、と音を立ててキスした。

「雲母さんの分、取っとかないとですからね」

口の端を引き上げてのニヤリフェイス。伊達を解放し設楽は台所へ向かった。呆然と設楽の後ろ姿を見送りながら、伊達はどうにも可笑しくてコタツで一人で悶絶した。ハルちゃんの分て。分て何なん。

愛する二人に共有される自分、共有する二人。愛を分かち合うこれシェアリングの極意であると言うのなら、これもシェアリングに入るのだろうか。台所から聞こえる物音が、心地よく伊達の耳を擽った。





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