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smashing! やさしさとキレカワと

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士の働く、佐久間イヌネコ病院から新幹線と地下鉄で約3時間。そこは敷地内で数匹の猫が暮らす小さな寺。その寺の現住職・妙達こと佐久間達丸は鬼丸の兄。その幼馴染でガタイのいい美形は、キャラクターデザイナーの真々部千秋。

元々はお手入れのつもりだった。爪の先がきちんとしてると取引先への印象もいい感じになるし。手もガサガサより綺麗な方がずっといいし。それがこんなどハマりするなんて思わなかった。身だしなみきちんとすると人生変わるのよ自分軸でだけど。

お寺の裏手にある路地裏に、達ちゃんと俺の同級生、最近この街に戻ってきた浅井まどかがネイルサロンを開いた。まどかは円って字を書くんだけど、わざわざ平仮名にしてる。そのままだとえん、て呼ばれるから可愛くないって。

俺は口調こそこんなだけど、オネエじゃないし、そういう性癖もない。達ちゃんとも仲良しだけど全然付き合ってないし。まどかは昔からガチだった。ここに戻ってくる前は小さなバーをやってた。俺と背格好も似たタイプだったからよく間違われたし、まどかを追っかけてきたお客に泣きつかれたり。そんな時まどかは、ママちゃんがウチの店に来れば解決なのよ、などと怖いことを言う。俺は同性同士の恋も全然ありだと思うし偏見は全くないけど、そんな俺がまどかの店で働くわけにはいかないと思った。立ち入っていい距離がある。理解しようとしている、そんな程度の心構えの俺にその資格はない。

「ほらあ、ママちゃんはこれ似合うと思ったあ」
「まどかの選ぶのってちょっと可愛すぎじゃない?」
「ネイルくらい思い切り行ったっていいのよ、さりげないでしょ?」

いつもなら爪を整えて上から強化剤コートで終わるんだけど、今日は一本だけ甘いピンクにウサギちゃんラインストーンをデコ。これじゃ俺ホンモノにしか見えなくない?大丈夫よお皆ホンモノだって思ってるきっと。まどかのは冗談に聞こえないんだけど。いつも朗らかで俺よりちょっとだけ線が細くてけっこうキレイ。達っちゃんもけっこうまどかの心配してるけど、見かけと違ってとんでもなく芯が強いんだよねこの子は。

キレイにデコッたネイルをひらひらさせて、裏口からお寺に戻ると、夕飯の支度してるここの見習い僧侶、徳河慶喜くんが目を丸くしてる。あネイルしてるんですかカワイイですね!俺の手を取ってまじまじと見つめ、嬉しそう。この子って可愛いものがすごく好きで、自室にもカワイイが揃ってる。俺のデザインしたキャラクターのぬいぐるみも飾ってくれてて、しかも一緒に寝てくれたり。作者冥利に尽きるってこういうことね。

なんだママ戻ったのか。台所からなにかつまみ食いしながら達ちゃんが出てきた。今日は旨い芋天が揚がってるぞ、俺の口にアツアツ芋天を突っ込んでくる。熱っつ!あでもすっごい嬉しい美味しい。達ちゃんが俺のデコネイルを見つけて、珍しそうに眺めている。ママこれはウサギだな可愛いな。そう、普段はそんな素振りも見せないけど、この達ちゃんもけっこうなカワイイもの好き。そういう人は絶対に、優しいんだって俺は思うんだ。

達ちゃんもまどかにデコッてもらいなよ、いくらなんでも遠慮する、想像しただけで可笑しいその姿。お寺の和尚さんがデコネイルってのも面白いと思うけど。またまどかの店に寄ってあげようよ、そうだな顔見せ行くかな、キレカワ好きの和尚と見習い坊主くん、優しい二人を連れて。


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