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smashing! そんなのでもどんなのでも

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。

今日は伊達の出勤日。週一でこの病院に非常勤としてやってくる伊達は、税理士の雲母春己とパートナー同士なのだが、後輩獣医師の設楽泰司とも付き合っている、といったいささか奔放が過ぎる方々なのだ。

その後輩でもある佐久間と喜多村は、在学中から伊達のあれやこれやを知るせいかその事実にはさほど驚かず、それよりも雲母と設楽の間柄を心配したりしたのだが、今はもうなんの問題もないと判断した。ていうか、しちゃった。

「佐久間の飯さ、今日なんだろね?」
「雅宗先輩がなんか食べたいのあったら作るってさ」
「えー♡じゃあねえ…」

伊達は佐久間の側で一緒に冷蔵庫を物色し始めた。そうだ伊達さん鰻があるんだけど?鰻の誘惑に秒で落ちた伊達は、軽やかステップで早々にリビングに戻ってきた。

「鰻見た?」
「みたあ。しら河のやつ、佐久間のお兄さん送ってくれたん?」
「鬼丸が急に食いたくなったって通販したんだ」

タイミングがピンポイントだな!二人は少し浮かれ気味に酒の支度を始める。佐久間が鰻丼を運んでくる頃には、軽く出来上がる感じになっていた。喜多村はいいとして、そのモノノフのヒトは大丈夫か寝ちゃわないか。わあい鰻うなぎいい。伊達は丼の時はスプーンが好きらしい。

「こう、スップンでこう。取りこぼしがないんよ」
「わかるわ俺もスップン好きー」
「伊達さんおかわりあるからいっぱい食べなよ」

その時、伊達の携帯が点滅。わあいハルちゃあん。しばらくぼそぼそと話し込んでいた伊達が急に佐久間に向き直る。

「佐久間、ハルちゃん呼んでいい?」
「そんなの全然ですよ!鰻すげえあるし」
「佐久間がOKって〜♡待ってるねえハルち♡」

嬉しいなあありがとね。伊達はスプーンにてんこ盛りにした鰻を口一杯頬張りながら携帯に指を滑らせる。最近ハルちにちゃんと会ってないからねえ。同居しててもそういうすれ違いって、大人になると普通にあるものだ。

「ウチでゆっくりしてったら、雅宗先輩」
「うんうん、鰻頂けるしね」
「泊まるんだったら寝室空けたげるし」
「いいのお?嬉しいなあ~♡」

泣いてるのか笑ってるのかわかんない顔でずっとありがと、言い続けて。それよりもハルさんがゆっくりできるといいんだけどなあ。心配そうに問いかける佐久間に、伊達は笑いかける。

「俺らの心配までしてくれるんねえ」
「雅宗先輩はケアする相手が倍だからな」
「ウン…」

愛も二倍、気遣いもそれなりに。そしてなにより自分よりも相手を思い遣っちゃう、似合わないそのスタンス。いつの間に身についちゃったんだろうね。喜多村は伊達の好物のチューハイを差し出した。

「でもね俺ら、そんな雅宗先輩、嫌いじゃない」

途端抱きつきにかかる伊達を華麗にかわし、喜多村は目を細めニヤリと笑った。


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