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smashing! いただいていただかれて

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。そこで週1勤務をしている、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗と経理担当である税理士・雲母春己は付き合っている。そして伊達は後輩の設楽泰司ともそんな仲だ。

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日本列島より大きな低気圧が大暴れする奇っ怪なこの季節、皆様お体の調子はいかがでしょうか?あえて最近「余暇」を信条にしている税理士・雲母春己です。

週の半ばのド平日、僕を除くお二人は年度末も影響しているのか、波乱に満ちたシフトに呑まれる感じになっておられます。というわけで今日、僕はソロ活動の日。低気圧はあれですが何故かとてもいいお天気。伊達さんの平屋、久しぶりに訪れたのですが、さすがのお二人、僕が掃除する箇所の少ないことといったら。設楽くんの高校ジャージに割烹着で重装備したものの、せいぜいざっと掃除機をかけるくらい。

そんな僕はそれでも見つけました。これやっとくべきかな的案件。それはお布団を干す。これはけっこう重要かつかなりの確率で喜ばれそう。ここでは全員お布団ですので、せっかくですから三人分と、そしてお客様用のも干すことに。干すところ沢山あってよかった。

僕は最近、煮麺に凝ってて。頂き物のお素麺が沢山あるので、一人の時は大抵、お出汁とお醤油で簡単に。それを知った伊達さんが、柚子や酢橘をそっと冷蔵庫に忍ばせてくれています。さっと作ってさっと食べる。簡単に見えることもなかなか上手くいかなかったんですが最近は、味完璧ですね、って設楽くんが。あのお二人は本当に褒め上手なので、いつも上機嫌でいられるんですよ。

取り込んだお布団を居間と続きの部屋を開け放して並べて。なにかの映画で見るような壮観な眺め。少し経ったらカバーを掛けて押し入れに仕舞わなければ。その前に少しだけ、お布団を干した者のみが味わえる特権を。

わあふっかふかですねいい匂い…よく「おひさまのにおい」と称されるこの日干し感、僕にはどうしても「おふとんのにおい」にしか思えないんですけどねまあいいか。あのお二人の匂いとあと、僕の匂い。混じり合ってこそ完璧なんですね…完璧…完璧って何がでしたっけ?あれ?何が混じり合ってるんだろう…あれ?なんだか手足が重くなってきたような。少しだけ、このまま少しだけ休憩しましょうか。この極上のふかふかお布団の上で。

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「…ちゃー…、ハルちゃーん…」
「起きませんね。よほど疲れてたのかと」
「ここなら風邪引くとかないからいいけどねえ…」

早めに上がることのできた伊達と設楽が戻った時、居間に並べられた布団の上、ジャージ姿の雲母が倒れていた、ように見えた。一瞬緊迫しながら二人は雲母の様子を確認すると、安らかな寝息を立て眠っていた、だけだったよかった。

雲母の寝ている布団だけはそのまま、設楽は手早く他の布団にもカバー類を掛け、順に押し入れに運び込む。未だ目を覚まさない雲母が横たわるその布団は、伊達のものだった。ハルちは本当に可愛いんよね。伊達がこれ以上ないくらいに目尻を下げて雲母の隣に寝そべっている。設楽は薄手のブランケットで雲母を包みながら、ニヤつく伊達に強請るように言った。

「伊達さん、俺ハラ減って」
「んあ、俺何でも作るよお」
「じゃあ、ガチで美味いやつ」

なら素麺でチャンプルーにしようかね。伊達の言葉に設楽が頷く。鼻歌まじりで台所に向かう伊達をいきなり羽交い締めにし、設楽が耳元に囁いた。美味い伊達さんのことは雲母さんと交代で、後で美味しくいただきます。


伊達は全く動じることもなく、喉の奥で笑って設楽の頸に噛み付いた。




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