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佐久間イヌネコ病院 luv.49 おしたくのきろく

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僕はちょうど、白河先生のお宅で頼まれごとの雑用をしていた。そろそろお暇しようかと思っていた時、先生がボストンバッグに宿泊用と思われる荷物を黙々と詰めているのに気づいた。白河先生は明日から少し遠方での所用があり、おそらく一泊はしなくてはならないという。

「言ってくだされば僕が…」
「いや、ハルには今回もいろいろ用事を頼んでしまったからな。それにこのくらいならひとりでも大丈夫だ」

なんか先生楽しそうじゃないですか?僕は邪魔をしてしまわないよう、それでもあとは夕食の準備だけしておこうと、リビングで旅行支度をする先生の後を通り過ぎようとした。その時ふと目についたのは、先生が手にしている古びたメモ帳。

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おしたく(お泊まり用)

お財布
ケイタイ
ハンカチ
ティッシュ
のど飴
おくすり
したぎ
アイマスク
やわらかいタオル
夜用のはらまき
くつした(足首まであるもの)
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覚えがありすぎる。知ってるそれ。昔使ってたメモ帳ですから。僕は極力平静を装い先生にそっと尋ねた。

「…あの先生、それって…」
「(あ見つかっちゃった)…すまんハル。これがないと支度ができないんだ」

当時の、確か15、6歳の頃。なんとか先生のお役に立ちたかった僕は、生活動線やあらゆる先生のデータをこのメモ帳に記していた。家にいたお手伝いさんや弁護士事務所の方達に、先生のお好きなものや癖や、いろんなことを書いて覚えて、いつしか全てが頭の中に入った頃、メモ帳はどこかに仕舞い込んで無くしてしまった、そう思っていた。

「ハルのメモは皆びっくりしてたぞ、俺のデータが完璧だってな」
「…すみません、まさか先生のお手元にあるなんて」
「いやいや、言っただろ?俺はこれがないと」

支度できないし、逆にこれがあるだけで心強いんだ、って。

ほら入浴剤とかこんなことも書いてくれてあるんだぞ。先生はとても懐かしそうに嬉しそうに、手の中のメモ帳を開いて閉じて。僕は震える両手で、先生の手ごと、メモ帳を握りしめる。

こんな時なんて言ったらいいのか、僕には何も思いつかない。頭の中に入っている文字もデータも、なんの役にも立たないなって思うんです。
この、温かな思いを先生、あなたに伝えるには。




/雲母春己

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佐久間イヌネコ病院
美味しいラーメン屋さんが
なかなか見つからないので
皆にそれとなく聞いてたら
なんとウミノ湯で
「じゃあラーメンも出そうか」
という流れに

言ってみるもんだな!

(魔神先生)


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