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smashing! ものさしのないあいで

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。病院の経理担当である税理士・雲母春己。その雲母の元後見人はフリー弁護士・白河夏己。


白河先生は僕の元後見人。今はフリー弁護士をされてて、昔よりもちょっとだけ時間の融通も利くようになったらしい。僕が伊達さんと暮らすようになって、それまで年一くらいでお会いしていたのが、最近は月一、もしくは月三くらい。多いのでは、と最初は思っていたけど、伊達さんと設楽くんと三人暮らしになってからは、なんだかしょっちゅう先生のとこへお邪魔する機会が増えた。

先生は有能な弁護士だけど、メンタルが落ちないと「超敏腕」にならないのが難点。それでちょっとお疲れぽい感じの時を狙って、先生のお仕事を手伝わせてもらったり、僕の顧客の相談に乗ってもらったりしている。そらもうあっという間にこれにて一件落着、ですよ。

先生は「疲れた」という言葉を使わない。言霊を信じてるからな、そう言いながら、目の前のことを淡々とこなす。お風呂上がりに晩酌にお付き合い、僕の作った肴を先生はものすごく嬉しそうに食べる。ちょっとずつ味わうように。もっと色々作りましょうか?その言葉に片目を瞑って見せて、次来てくれた時のお楽しみにする。ああ、これですよこれ。僕の主君である伊達さんと被ってるところ。

それにしても僕の好みの基準は白河先生だなんて、伊達さんに言われて気がついた。こんな人と暮らしてたらそうなるって、伊達さんは全然気にしてないどころか、僕よりも先生に会いたがってたりもする。恋愛っていう物差しがないと、人をどれだけでも、どんなふうにでも好きになることができる。

お前の判断はいつも正しいんだ。先生の口癖。何をしても誰を選んでもどんな道を歩んでも、ハルはそれで完璧なんだぞ、と仰る。自己否定ほど下らんものはないからな。いろんな裁判や案件を目の当たりにしてきた先生は、そのことを僕に言い続けている。

先生は誰かとお付き合いしたいとは思わないのですか?機嫌を損ねてしまうかと思いきや、???みたいなマンガ目で、んや全然。僕を引き取ってから先生は恋愛沙汰から手を引いた、そう思っていたから意外だった。先生は嘘をつかないから、挙動不審になることもない。只々一途で真っ直ぐで、だからこそ今のお仕事に邁進できるんだと思う。

でも最近気づいたのは、僕に会うたびにどんどん表情が柔らかくなって、僕とあの二人と先生、四人でご飯を食べている時の先生は本当に、こんな幸せそうな貌をされるんだな、と。今まで見たことも感じたこともない穏やかさに、僕はどれだけ愛されてきたのだろう、と沁み通るような優しさを感じたりする。

俺はそういうの別にいいんだ。強がっているわけでもないその物言いは、昔から全然変わっていない、格好いい僕のダディ。


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