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smashing! おれのうんもばくあげで

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。

今年の夏、喜多村の実家の裏庭の畑ではスイカが豊作だった。ほぼ毎週のように喜多村の父と家政夫の本橋が届けてくれたため、喜多村は毎日大好物のスイカをたっぷりと味わえたのだ。

そのスイカの皮を使って、瑞々しい浅漬けや糠漬けを作っていたのは佐久間。千弦んとこのスイカってほんと白いとこないから沢山もらえてよかった。漬物好きな佐久間にはとんでもない逸品だったのだろう。喜多村はスイカの皮を漬ける、ということをしてこなかったので、佐久間作の漬物に興味津々。去年は皮が足らなくて作れなかったんだ、晩酌の支度をしながら佐久間が笑っている。

キュウリの浅漬けにイメージ的には近いな、喜多村はスイカの漬物を齧る。レモンサワーにした焼酎の合うこと。これすごく美味いぞ鬼丸、ぱりぱりと軽快な音を立てる喜多村に、よかった成功したな、佐久間が嬉しそうに温めた焼き鳥の皿を手にリビングにやってきた。

雅宗先輩からの差し入れの焼き鳥、喜多村の目の色が変わる。これ駅前の並ばないといけないやつだな、どうやら設楽が代表で並んでくれたらしい。足捻挫して暇だったんで、並ぶ理由もクールめに押さえてるなあ。焼き鳥のえも言われぬ香ばしい香り、またこのスイカの皮の甘みが合うな、この組み合わせは完璧でしかない、褒め言葉しか口から出てこない。

知らなかった味をこんな最高の形で知ることになって、しかも季節限定で。なんて俺は運がいいんだろうな。喜多村が満面の笑顔で佐久間に笑いかける。いつもはカッコいいのになんだクッソ可愛いな。佐久間は思う。正直自分の作るものは実家の寺での自給自足的な、お婆ちゃんのライフハックみたいのだと思っていた。それをこんなに手放しで喜んでくれる喜多村が、とても嬉しかった。

運がいい、それはきっと喜多村の中での基準全てが、運がいいという自分軸で構成されているからなんだろう。こっちこそお前に引っ張られるように運がよくなっている、確実に。そう思えるようになった自分のことも、運がいい、そういうことにしておく。

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