smashing! おまえのほんきがスパーキン
佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士の働く、佐久間イヌネコ病院から新幹線と地下鉄で約3時間。敷地内で数匹の猫が暮らす小さな寺。その寺の現住職・妙達こと佐久間達丸は鬼丸の兄。
「うーん、なぁんかしっくりこないのよねえ…」
日曜の午後。キャラクターデザインの仕事を生業とする真々部千秋は、本来ならやらないはずの「仕事の持ち込み」を、本堂に近い客間を借りて行っていた。お寺で仕事しないって言ったのに俺のバカ、イレギュラーで急遽入ってしまった修正を、達丸の助言もあってここで作業をさせてもらえることに。
なかなかすんなりと案がまとまってくれない。普段焦ることのない真々部も流石にため息をつく。こんな時、昔だったら達丸の弟・鬼丸が自作の絵を見せ元気付けてくれたものだ。鬼丸は「画伯」で、その破壊力たるや万人を悶絶させるものがある。真々部はふと、その兄である達丸の画力を思い出した。
「…そういえばいたわ、ここにも!」
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「俺ぁそういうの苦手だって」
「いいのいいの苦いとか甘いとか。このパステルでね、達っちゃんがウサギさんを描いてくれたら」
「どうするんだそのウサギ」
「俺の危機を助けると思って!お願い!」
しょうがない奴だな、丁度近所で読経を終え戻って来た達丸は、袈裟姿のまま机に向かった。ぱっと見渋くて格好良くて筆文字も達筆で、それなのにこの佐久間兄弟、こと「絵」となると人外なのかと思うくらい逆のベクトルを放つ。
「…こう、耳が長くて…」
「(なんで目が三つあるのかしら…)」
「手の先は5本だったか」
「(キタキタキタ)」
もはや真々部は笑いなどしない。厳かに賢者のようにその完成形を待つ。鬼丸くんも凄いけどこの達っちゃんのはあれね、不動明王様が無双してる感じよね。徐々に明らかになる全貌に少し戦慄を覚えつつ、できたぞ、達丸が差し出したスケッチブックを手にし感動のため息をつく。
「…素晴らしいわよ達っちゃん」
「そんなんでいいのか?」
「これで俺の内なるパワーをスパーキンするの」
紙の真ん中に、目が三つで尖った耳を持ち、口のないウサギ?がこちらを見ている。そして顔の横に手先(前足)だけが丁寧に描かれている。戦慄の5本指。これですよ俺が見せたかった景色は。この場合あの気象的アイドルの名言は当てはまらない気がすっけどまあいいか。
「ありがと達っちゃん!なんかすごい湧き上がるわ!一気に仕上げるわよ!」
「まあ、ママがそう言うならよかったわ。気遣わんと仕上げな。俺ぁよっちゃんと飯作ってくるから」
嬉しい今晩何かしら、軽口とは真逆に真々部の手はちょっ早でペン類を駆使し、あっという間にラフイラストを仕上げていく。お前の本気出すポイントが未だに読めんわ、それでも達丸はイラストに集中する真々部を見、嬉しそうに目を細めた。
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