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smashing! つなぐえんとそのいろを

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。そこで週1勤務をしている、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗と経理担当である税理士・雲母春己は付き合っている。そして伊達は後輩の設楽泰司とも恋人同士。


花を選ぶなんてことは初めてだったから、帰り道に寄った商店街、花屋の場所もわからなかった。数日前は伊達さんが雲母さんに指輪を贈ったという日。何日も前から用意していたものを一緒に渡すのに、花とプラス何か旨いものでも買って帰ろうかと考えを巡らせながら、目の前で美しく組まれていく少しゴージャスめな花束を眺めながら思った。

花抱えて歩く道すがら、まるでちょっとしたグラビアの方だって、あの二人がよく言ってくれるのを思い出す。黙ってたらの話だけど。通り過ぎる人がたまに二度見したりするのはそのせいか、そんな自惚れもたまには気分を上げてくれる。その時目に止まったのはパン屋の店先、期間限定のプリンが売ってた。これはいいチョイスだと思う。六つくらい買っとこう。

ふわり、歩きながら時折甘く妖艶な香りがくる。雲母さんが大きな白い花が好きで、伊達さんは鮮やかなのが好きらしいから、結局白、黄色、オレンジ等になってしまった。芍薬、香りの強いオレンジのバラも、店員さんが丁寧に説明してくれたんだけど、あまり頭に入ってないな。あ、でもひとつだけ、とても印象的な話があった。それはたしか。

「設楽あーー!おかえりい!」
「おかえりなさい!」

あれ?通りの向こう側で伊達さんと雲母さんが手を振ってる。ジョガーパンツと長袖のTシャツ。お揃いじゃないのにお揃い感な。まあオレら三人まとめたら年中そんなのばっか着てるんだけども。二人が手繋いでこっちにやってきた。記念日おめでとうです。雲母さんに花束を渡す。伊達さんには今買ったプリンの箱。

漲る歓声。二人とも喜び方が大仰なんだけど、心からのやつだから全然いい。雲母さんがラッピングの中でこぼれ落ちそうな花々を覗いて、嬉しそうに呟く。

「…設楽くんで、よかった。そう思います」

伊達さんが俺の手を取り、帰ってこのプリン食べようねえ。ペントハウスまでの道を三人で歩く。もうひとつ家にあるんですプレゼント。こっそり伊達さんに耳打ちすると、嬉しそうにオレの背をぽんと叩いた。

唐突にその時、オレの選んだこのオレンジのバラの意味を、店員さんの言ってたあの言葉が蘇る。

「絆」という意味を持つんですよっ、て。




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