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smashing! おいしいものもおおぜいで

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。


手間のかかるものを作っている時、不思議と集中力が増し、雑念が払拭される気がする。いわば無我の境地に近くなる。ひとつひとつを細やかに丁寧に、そして大きく畳んで丸めて。

「…こんくらいでいいか?鬼丸」
「すごくいい!その大きさを基準にしようか」

水曜は午前で病院は終わる。佐久間と喜多村は週末あたりに巻き起こりそうな呑み会の予感に、今から準備を始めていた。屋上で桜見るか、河川敷行って釣り大会か。どちらにしても宴会は必須だからだ。宴会時わりと点心系が人気なため、ここでよく酒の席に登場する焼売、餃子、あと台湾料理店で食べた小籠包みたいなやつ。それを作り置きしようと言うことになった。

病院の片付けを終えてから二人はキッチンに篭り、ひたすらタネを薄皮でぎゅうぎゅうしたり寄せたり畳んだり。遅い昼食にはちょっと失敗したやつをワンタン風に。バットに並んだ点心は壮観。ようやく作り終えたかな、そんな時、玄関がワンノックオープン。

「お邪魔します」
「さくまあー!なにここすげえいい匂いすんね!」
「こんにちは♡」

あ伊達軍団キター。喜多村が玄関に向かうよりも早く、伊達、雲母、設楽の三人が揃ってキッチンにやってきた。三人とも仕事帰りらしくきちんとした格好だ。

「千弦ら何作ってたん?」
「んとね、焼売と餃子とあと…」
「え!まさか俺ら来るの知ってたん?」
「これはあれ、週末あたりに皆ここ来るだろ?作り置き」

伊達の目がキラキラと何かを訴えている。察するお付き二人が止めるのかと思いきや…いや揃って目キラキラとか。あのー僕たち着替えてもいいでしょうか?小首をかしげるクールビューティ。一緒に真似てるヒヨコ頭(不自然)。

「あ、じゃあ俺着替え持ってくる!全員泊まりでいいのかな?」
「佐久間ほんといい子よね〜」
【【 ね〜〜〜 】】

おかしなお強請り覚えたなおい。

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全員部屋着に着替えての早めの夕食兼プチ宴会。週末俺ら手伝わせてもらいます。設楽が喜多村に小声で言いながら、追加の酒を取りに代表でキッチンに向かった。リビングで急遽始まった宴会。餃子と焼売と小籠包みたいなやつ。焼きと蒸し両方出てきて、伊達と雲母は大喜びだ。

「お二人の焼売、ものすごく大きくて美味しいんですよね」
「この筍のコリコリがいいよね〜」

ここの点心はうんまいよねえ。そう言ってるんだろうけど、口いっぱいに詰め込んだ伊達の言葉はなかなか理解されてない。酒を持って戻ってきた設楽が全員分配り終え、伊達の隣に座る。そして伊達のモゴモゴを全て瞬時に理解して説明した。

「うんまいよねえ、と言っていますね」
「設楽もはやサイコパスだな!」
「千弦それちがう多分、テレパシーの…」

設楽は大食漢だが、あとの二人も最近負けてない。皆身にならないタイプでよかったかもね。早めに宴会が始まった分、沢山食べてくれている。何が嬉しいって全部平らげてくれるところだ。皆のために作ったものを、皆が美味しいと言って食べてくれる。これ以上に嬉しいことはない。

ふらりと席を立った喜多村が箸休めと言って持ってきた糠漬け。その美味さを誰より知る佐久間は、とても嬉しそうに皆にも勧めるのだった。




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