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smashing! まんなかのみぎのほうに

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。そこで週1勤務をしている、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗と経理担当である税理士・雲母春己は付き合っている。そして伊達は後輩の設楽泰司とも恋人同士。


飄々としてて本心がどこにあるのかわかんないこの人は、自由っていうくくりを取られちゃうと途端に息が出来なくなる気がしてた。だけど仕事の時も会議だの出張だの、おおよそ似合わないシチュエーションですら、そう、ゆったり楽しそうに過ごしているのだ。

「そりゃお前え、俺だってねえ社会人の人なんだから」
「それだとヒト二回ゆっちゃってますね」
「もっと敬ってええええ!」

普段の会話の流れでも、気持ちがざわつくことがない。そういえば会ってから大分経つけど、この人には決定的に「ない」ものがある。「苛立ち」というやつだ。伊達さんてイラッとしたことないですよね、そう言うとびっくりしたような表情でああ、と頷く。なんでですか、ソファーの伊達さんの隣にいきなり尻ねじ込んだオレに少し苦笑いしながら。

「なんでだか昔から、あれよ、右脳で生きてるふうなんよ」
「うのう」
「そうそう。そんでね頭でなくてこう、お腹の辺りで考えてんのよ」
「お腹に右脳があるとは」
「だから、感覚よ感覚。このへんにね」

伊達さんの手のひらがさわさわと、オレの臍から少し下あたりまでを撫でる。丹田というやつですかね。スピリチュアルわかんないけど多分ね。頭の中に雑念、雑音が多すぎてどうにもならないときは深呼吸して、このあたりにお任せするんよ。成程、伊達さんの呼吸はたしかに深くて腹式だなとは思っていたけど、そういった事情だったとは。

「脳はともかく、悟った人みたいですね」
「俺は色々悟っちゃったの。でこうなったの」

なんか分かるような気がします、いつのまにかジッパー下げられてるし。気付かない間に素早いな。この人には躊躇がない、余計な遠慮もない。行動は明け透けでストレート。その分、こっちが恥ずかしくなるくらいに愛情表現が豊か。

あ、そうだ。思い出したようにオレは、伊達さんに向かって言った。本心がどこにあるかわかんない、そうじゃなかった。全身丸出しで本心だったんですね昔から、って。伊達さんは少し困ったような顔をしながら、おま疲れてんだったらおいで抱っこしてやるん。

そうして今日も役得で、癒しの儀式が行われるんだ。伊達さんの丹田あたりに顔埋めながら。


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