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smashing! あやつられるこころとは

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。そこで週1勤務をしている、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗と経理担当である税理士・雲母春己は付き合っている。そして最近、彼の後輩で彼氏・設楽泰司も二人と一緒に住み始めた。

その人がその人でない、そんな瞬間ってのがあって。これは伊達さんだとか理学療法士で獣医師だとか、日頃認識してる「外側」が全部なくなって、なんか個体としての生物のような。

大抵は飯食った後とか賢者な時間とか、伊達さんはオレにとってそんな風に見える時がある。色素薄めなオッドアイは、オレどころか目の前のものなんて映してない。なんかあ喉乾いたねえ。呑気な声は言葉でなく音。緩く絡みつく腕は蔓。ただ、直に感じられる温かさだけがヒトである証拠みたいに、オレは捕食される側のように動きを封じられている。

ああ、違うなそうじゃない。封じられるどころか、操られて、貪られて。動ける余裕なんてどれだけでもあるのに、オレは伊達さんの中から出られない。その湿った肌の上から逃れられない。

「ちょっとハラ減ったから、なんか持ってくるねえ」

いつのまにかベッドから抜け出した白い肢体が、オレの目の前にちらついて部屋から出ていく。伸ばした腕の先、オレの薬指には翠の石。硬質なその光がオレを段々と正気に返らせる。

ああ、指輪は自らの魔を封じる、その逆もあるんだ。






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