見出し画像

smashing! あんたにかなわないわけ

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。そこで週1勤務をしている、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗と経理担当である税理士・雲母春己は付き合っている。そして二人と一緒に住み始めたのは伊達の後輩で恋人、設楽泰司。


こないだばあちゃんの畑作業で痛めた足、捻挫がなかなか治りが悪い。じっとしていられないから動き回るのがよくないんだろう。立ってるだけだからとつい人気の焼き鳥屋に並んだりしたし。それであまり動かないようにと、伊達さんと雲母さんに実家に帰された。ていうか実家でゆっくり養生したほうがいいと判断されたため、しばらくは実家暮らしだ。

オレらの家にいると一日掃除したりするからなあ。ここは大人しく従ってゆっくりすることにする。有り難く。身体が鈍るからストレッチとか、雲母さんの教えてくれた簡単なヨガポーズをこなして、あと実家の家事は手伝う程度にしないと怒られるから丁度いい。

もう寝ちゃったかと思ったん。

昼寝しすぎて目が冴えたんで配信観てました。夜遅く、伊達さんからの電話にちょっと驚きながらも嬉しさが勝つ。珍しいですね電話。ハルちゃんは明日早いから自分の部屋にいてもらってるん。伊達さんは雲母さんの邪魔をしたくない、そう言ってるけど、この人ほど寂しさが全身からダダ漏れになる人をオレは知らない。

その配信俺も今かけてる、伊達さんが小さく笑ってる。いつも一緒に観てるやつだから自然にルーティンワークに入ってるみたいだ。生活のリズムが同じ、起きる時間、食事の好み、無意識の癖。会話は呼吸と同じくらいに自然で、でもとても大事なものだと思っている。挨拶もちょっとした言葉も、声に出して言う。それは言霊になって相手に届く、オレはそう思っているから。

しばらくスピーカーにしたまま配信観て、少しだけ話し込んだあと電話を切った。途端に一人でいることのリアルさが湧いてきて、脇腹のあたりがヒュッと寒くなる感じ。何だろ、こういうのは久しぶりな気がする。大人になってからは感じたことなかったやつ。大勢の家族の中ではなかった感覚、それがたまに一人きりになると感じられた。ああ、これひょっとして「寂しい」ってやつか。

急に伊達さんと話してたいろんなことを思い出して可笑しくなった。オレはずっと、伊達さんほど寂しさが全身からダダ漏れになる人を知らない、そう思っていたんだけど。

それって、オレの方なのかもしれない。

お前が寂しがってるんじゃないかと思ったん。あの呑気な声が聞こえた気がする。逆にそのための電話だったんだな、そしたら途端に顔が見たくなった。もっかい電話してテレビ電話状態にしてもらおう。そんなお願いを中に呑み込まず、ちゃんと外に出せるようになった。ってことは多分そこが、オレがあの人に敵わない理由だったりするんだ。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?