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smashing! のぞみかなうびしゅを
佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。そこで週1勤務をしている、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗。彼は佐久間の病院の経理担当である税理士・雲母春己の恋人だ。
呑むとなんと!願いが叶ったりすんの♡
なんてこと言っちゃったけど、あのブラックカラント、カシスのお酒は俺がギリ大学行ってたかどうか、みたいな時期のやつで、元カレだったやつと別れたか別れないかその辺り。あんまよく覚えてないんだけど。実家で弟がやってる果樹園からもらったやつでね、そんで大事にしてた。
時期が時期だったから、捨てようか迷ったんだけどね、せっかく美味しく漬かったんだから呑もうと思ったんよ。そんで捨てるのやめたあたりから、ちょっと不思議なことが続いたんだった。最初はちっちゃなことが叶ったり、そのうちどんどんラッキーが続くから嬉しくなった俺は、あえてこの果実酒を封印することにした。これがないと願いが叶わない、そんなのヤだからさあ、もっととっておきの願望が出来たらそん時に呑もう、そう思って。
そしたら今の今まで忘れてたっていうね。
設楽がパントリーの奥から見つけた果実酒。あこれ忘れてたけど俺が封印したやつだわ。呑むとなんと!願いが叶ったりすんの♡そしたら好奇心と不信感と愛(?)がない混ぜになった設楽の視線。まあまあ呑んでみなよお、そう言いながらキッチンのダイニングテーブルの上、設楽にカシス、俺のはちょうど頃合いな梅酒。漬けたての金柑酒はそうだな、最低半年は置いときたいね。
冷たいミネラルウォーター、それだけで最高に香りが立つ。この寒いのに設楽は氷を浮かせて、一口呑んで「おお」みたいな声を上げる。想像してたより甘くなくて美味いですね、その頃は俺ここまで甘いのん好きじゃなかったから、甘さ控えめなんだよね。氷砂糖少なめな代わりに確かウォッカで漬けたから度数は高い。
強い酒もいける設楽は、舐めるように味を、香りを堪能している。酒好きならわかるこの流れ、若いのにけっこうジ…、ああ大人っぽいよねそうね。本当に願い叶うんですかね、鼻に抜けるような微かな呟き。
そうね、お前が願うなら。
目元に降ってくる軽いキスが、なんだろな擽ったく感じる。いつもならこのまま雪崩れ込んでもいいシチュなのに、なにか作りましょうか、設楽が冷蔵庫を物色してる。
設楽の願いを聞いたりはしない。野暮な俺の行動なんてのは邪魔にもなりゃしないけどでも、心の奥底に潜んでる「お前はいつか捨てられるんだ」自動思考のリフレイン、巻き込まれないように距離をとって無視し続ける。
余計な思考が「願望」として叶えられないよう、俺はこうして純粋な望みだけを抱えてお前に触れるんだよ。
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