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smashing! あいとわらいとおれごはん

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。

久しぶりにカレーが食べたくなった喜多村。それも普通のやつ。ちょっとゆるめでジャガイモと肉がゴロゴロしてて。喜多村の実家暮らしだった当時、家政夫だった本松潤が作ってくれていたのが、喜多村にとってのおうちのカレーだ。

朝の空き時間や昼休憩に少しづつ仕込みを始め、夕診後にビールと共に佐久間と食べよう、そう計画していたのだ。米を研ぎ、炊飯器に仕掛けておいたのだが、夕診後様子見にキッチンに戻ったら、炊飯器が起動していない。パネルは点くがどうやっても一向に温まらない。あこれ逝ったな。そろそろ下の掃除を終えて佐久間が戻ってきてしまう。あれしかないか。

喜多村は土鍋を出し、炊飯器の中の米ごとその中に開け、水量を微調整。うろ覚えだけど確かこんな感じだな。土鍋をガスコンロにセッティングし、カレーの味も微調整。しばらくして佐久間が下階の掃除を終えてキッチンにやってきた。ずっといい匂いしてたからやっと食べられる嬉しい。なんかノンブレスになりつつあるな全員。土鍋で炊いてくれたんだな!佐久間が嬉しそうに笑う。炊飯器壊れちゃったんだ。ちょっと古かったからなあ、労ってお役御免してあげような。佐久間はカウンターの隅に置かれた炊飯器をそっと撫でる。

数十分後、香ばしい香り、ぱちぱちと爆ぜる音とともに炊き上がった米。ふっくらとして艶があって。喜多村がしゃもじを入れると、ふわふわの白米の下からきつね色のおこげが顔を出す。二人は完全にデレ顔で飯をよそい、喜多村特製おうちのカレーを、その横になみなみと。

リビングには佐久間の並べた福神漬けやもやしとごぼうの胡麻和え、伊達家にあったどっかの地ビールも。恭しく運ばれてきた主賓はカレー、ではなく、土鍋で炊かれたうまい飯。途中で主役交代しちゃったな。喜多村が笑いながら、いただきます、口いっぱいに頬張りながら佐久間が目を細める。俺はこれ、ダブル主役、ダブルキャストだと思うよ。時々佐久間は着地点のわからない返しをしてくるけど、今日のは言わんとしてることが伝わってくる。千弦んとこの家のカレーはほんとに美味しい。ああ、そうやって喜んでくれたら大満足なんだ。

カレーは食べたかったけど、それよりも心満たすのは佐久間の、美味しいの言葉とその顔だ。なんだろ、いわゆるそういう欲とは違くて、お腹の真ん中辺りにとすんと落ち着くような。足りない、なんて言葉全部消え去るような、圧倒的な充足感。

俺はさ、これが愛ってやつなのかなて思ったりするんだよ。言わないけどな。きっと笑われるだろうから、俺も笑っちゃうだろうから。


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