見出し画像

smashing! きみのくれたさいせんたんを

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。水曜は午前のみの営業です。

病院の経理担当である税理士・雲母春己。雲母は丁度商店街のお得意様との打ち合わせを終え、佐久間家にお邪魔した。なんか今日ハルちゃん来るかなって話してたんだ!そう言って三人分用意された遅めの昼食は、喜多村の辛い肉味噌が利いている坦々麺。そして佐久間と喜多村は既に朝診後一杯やってたらしく、佐久間は普通モードだが喜多村がちょっとテンションがおかしい。

「夕方のリイコくんのお散歩、僕が行ってもいいですか?」
「えすっごい助かる!着替え、千弦の出すよ」
「よかったなリイコ!ハルちゃんとデートだなお前!」

いつもなら誰が来ても浴室前のバスマットから動かないリイコは、雲母となると話は別。小一時間前から耳がそば立ち、玄関マットに座ったまま動かない。それで二人は、今日ハルちゃん来るんじゃないか?と察するのだ。

喜多村の部屋着に着替えると、リイコを従えて颯爽と雲母は出かけていった。マナー的な袋の入ったトートには佐久間お手製の経口補水液的なスポーツドリンク。曇り空でも気温はまだ高め、なのでなるべく日陰を選んで、今日は商店街沿いのコースで。リイコは時折、雲母の方を振り返りながら、ゆっくりと先導していく。

商店街の脇道、見慣れない店を見つけた。期間限定らしいそのショップは、手作りのペットグッズを扱うらしく、ショーウィンドウにはワンちゃんネコちゃん用の可愛らしい洋服が飾られている。ペットちゃんもOKと書かれた文字に、つい雲母はリイコとそのショップに入った。

「わあ可愛いですね…あ、これは頭に…ヘッドドレスですね成る程。このお祭りの法被はサイズも豊富、これはマント仕様なんですね素晴らしい」

独り言も流れるようなノンブレス。雲母は足元で自分を見上げるリイコを見つめる。ああこれ着せたい。リイコくんはきっと何でも着こなすファッショナブルキューティーパイ(?)。少しだけ頭部のバランスが大きく見えますが問題ありません。可愛い可愛いとリイコを撫で回し、色とりどりのコスチュームをそっと合わせる雲母。その間リイコは身じろぎもせずただ恍惚の表情を浮かべている。雲母はその中でも厳選した数枚をレジへと運んだのだった。


ただいま戻りました、佐久間家に戻った雲母とリイコ。頭には可愛らしいヘッドドレスが装着されていた。リビングでテレビを見ていた喜多村が思い切り二度見。キッチンから出てきた佐久間がリイコを見て固まった。

「ごめんなさい、ついリイコくんにプレゼントしたくなってしまって。でも見てくださいとってもお似合い♡」
「信じられない…リイコそういうの全部拒否ってたのに」
「やっぱりハルちゃんだと全て従順になるんか」

頭の天辺あたりにほわほわとしたチョコレートブラウンの巻き毛。大きな耳がビローンと顔の真横についていて、小さめの目は薄いオレンジ、大きく不気味な口には牙がびっしり。ハルちゃんに従順てことはお前はきっとパソコンなんだな。喜多村の嘆きなど完無視し、ヘッドドレスを被ったリイコは幸せそうに雲母の足元に寝そべった。なんかこの画見た事あるたしか某モノノフの人みたいな立ち位置。

「僕のプレゼントがお気に召したようで嬉しいです♡」

幸せそうにリイコの頭を撫でる雲母に、二人はそれでも嬉しくなった。愛犬が可愛い言ってもらえるの、自分が褒められる以上に嬉しいのだから。その後もずっと、リイコは雲母に買ってもらったコスチュームを咥えてきては、二人につけてくれと強請り、散歩に行くのが日課になったのだった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?