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smashing! うけいれることをうけいれて

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。

今日は日曜、病院は休みで俺も鬼丸ものんびりしている。そんでもう一人、雅宗先輩が来ている。どうも設楽と出掛けるはずだったのが、設楽の急な用事で取りやめになって、一人だと寂しいからと早朝から来訪し、そっと玄関から入ってリビングで、リイコと一緒にブランケットに包まってた。

リビングの片隅、ローソファーの上に不審なこんもりとした塊、そんで寄り添ってるウチのワンコ。今更誰がいても驚いたりはしない。大抵が伊達軍団の誰かだと思ってるからなあ主に雅宗先輩なんだけど。カフェオレ入りのマグカップを持って行くと、声も掛けてないのにのっそりと起き上がった。鼻いいなあ。それ甘いやつ?うん甘いよ、まだ酒でも残ってるのかちょっとぶ…な顔のまま、雅宗先輩はマグカップを受け取ったっていう。

「佐久間あ、お昼なに?」
「そうだな何にしよう…伊達さん何が食べたい?」
「美味しい野菜のんがいい」

佐久間は野菜、鶏肉、コーヒー、チョコレート、変態魔神♪千弦はビール、お肉とうどんとパスタなん~♪

雅宗先輩の「皆のだいすき羅列ソング」その怪しげな歌はすっかり耳に馴染んでいるけど、けっこうよく見てるもんだなあ。鬼丸は甘いもの全般好きなんだけど、特に好きなのはチョコレート。俺はそう、炭酸系が好きなんだけど、なんだかんだで一番好きなのはビールだ。もちろん肉も麺類も。

キッチンに様子見に行くと、グラタンやら揚げ物やらの仕込みが。週末に常連の牛尾さんに頂いた見事なカリフラワーと新じゃが、そんで知らない間に冷蔵庫に入ってた値の張りそうなベーコン(おそらく伊達組が入れてった献上品)とでグラタン。あとは車麩を揚げるらしい。カンタンだから千弦も伊達さんとゆっくりしてな。ウン、こういう時の鬼丸はキリッとしてて頼り甲斐がある。ただ火を扱うので魔神化する隙は与えてくれない。

「雅宗先輩なんか観る?これ面白い配信やってるけど」
「観る観る!」
「何か酒飲む?」
「あ、お茶でい」

雅宗先輩やっぱ昨夜呑みすぎたんじゃないか?そうなかなか抜けないんよね、明け方まで設楽とビデオ通話しててずっと呑んでたって、なにそれ甘酸っぱいなあ十代?あ呑んじゃだめか十代は。適当なお茶が見当たらないからナントカルイボスティーにしたら、思いのほか喜ばれた。

「もうすぐ出来るよー」

キッチンから鬼丸の声。雅宗先輩と二人でいそいそと食器やなんか用意して、運ばれて来た料理を取り分ける。こっれカリフラワーすごいねえ!雅宗先輩は鬼丸と一緒で野菜大好きだし、一晩中呑んでた身には優しく染み渡るんだろうな、珍しく黙って食べてる。おじいさんみある。

「あのねえ、歌詞追加しようと思うん」
「?誰のソング?」
「さっき歌ってたやつね」

野菜、のとこを全面的に「カリフラワー」にしようと思うん。決意表明、すっげ目と眉ちっか。ここでその顔するんか雅宗先輩。鬼丸が笑いながら、でも他の野菜も美味しいから「野菜」でいいんじゃないかな、その言葉に雅宗先輩も少し考えて、それもそうだねえ、妙に納得している。

雅宗先輩は「皆のだいすき羅列ソング」を歌いながら飯を食って、配信を観ながら楽しそうにしている。でも時折何故か視線が逸れては、窓の外を眺める。この配信昨夜途中見だったん、小さく呟いた雅宗先輩がなんだか頼りなげで。全くもって柄にもないんだよな。俺はこっそりと設楽にメッセージを送る。

【鬼丸が美味いグラタンを作ったから、寄ってかないか?】

設楽は鬼丸も飯も大好きだから、用事が終わったらきっとすっ飛んでくるだろう。ただ雅宗先輩がここにいることは内緒にしておく。

抱っこしてくれ言われれば抱っこしてやるし、キスを強請られれば腰抜かすまでしてやる。迎えに来てやってくれ、なんて言わないし、雅宗先輩を揶揄ったりもしない。それが俺の立ち位置。

会いたいやつの存在を、素直に認めればいいんだ、雅宗先輩はさ。


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