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smashing! きょういちばんのきみを

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。そこで週1勤務をしている、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗と経理担当である税理士・雲母春己は付き合っている。そして最近、伊達の家に一緒に住み始めたのは彼の後輩で恋人の設楽泰司。


久しぶり。すごい久しぶりな気がする。あ俺にとっての久しぶり、ってのは3日くらい。毎日側にいるのが当たり前の感覚に持ってきたい。この久しぶり、は雲母ハルちゃんと家でゆっくりできてるって事。

ハルちゃんは以前本業を見直して、忙殺される勢いだったスケジュールをなんとか整えて、皆で過ごせる時間を作ったばかりだったんだけど、その分いろんな手助けを引き受けちゃう。でもそこが俺のハルちゃんのいいとこでもあるんよ。

朝から俺とこの平屋に、二人で来てご飯作って食べて。今日はハルちゃんの休日だから。そうは言っても「ハルちゃん」だから、そうそうゆっくりもしてない訳なのよ。気づけば掃除機持ってうろうろしてたりするの。

今日は俺とゆっくりしよう。居間でごろんと横になって隣をぽんぽん叩く。ハルちゃんが俺に倣って隣に寝そべる。これいいねえ設楽の買ってくれたごろ寝マット。けっこう丈長めだから180超えの設楽とハルちゃんでも余裕なの。草木染めみたいな無地。若いのに粋なの選ぶ。

この辺りは日中家の中は涼しくて、窓開けてりゃほぼエアコンはいらない。虫が心配なら蚊取り線香つけて、風が欲しい時は扇風機。隣でハルちゃんが目を閉じて、お庭からいい匂いがしますね。庭からいい匂い?起き上がって外見たら、少し離れたお向かいさんの庭でバーベキューの気配が。風向きが直じゃないからふわっと香る程度なんだけど、俺らはこういう炭火系の焼きの匂いにとことん弱い。

ウチもなんか焼いて食べようかねえ。ハルちゃんが嬉しそうに頷く。そろそろ昼ご飯時だから丁度いいや。冷蔵庫に設楽が詰めてってくれてる肉がいっぱいある。すげえ牛タンあるやん牛タン食べようハルちゃん。焼き網出してガスの直火で焼いちゃう。ハルちゃんはそれに合いそうなワインを物色している。ここにも小さいけどワインセラー設置したから、いつ何時でもソムリエハルちゃん厳選のワインが楽しめるんよ。

選んでくれたのは珍しく白のシャンパーニュ。ブラン・ド・ブランが最高かと。焼いた牛タンのあっさり具合と白のスパークリング、想像しただけで震えそうよね。ハルちゃんがワインクーラーに数本のワインとグラスやなんかをセッティングしてくれる。座椅子もちゃんと設置してある助かるわあ(きっと俺酔うから)あとハーブ入りのソーセージも焼いて、ミモレットがあるからそれも出そう。このチーズの由来やなんかは設楽には言ってないの。こんなに美味しいのに、食わなくなるとつまんないから。

けっこうな量焼いたのに、大好物の(炭火じゃないけど)直火焼きの肉だからかな、見る見る消えてく感じ。美味しいものって喉通るときに消えるんよ。僕もずっとそう思ってました!こんな力説するハルちゃん、盗撮の魅力を説明する以外に見た事ない。ハルちゃんの選んだシャンパーニュもとんでもなく合うし、そもそもスパークリングワインの回りの速さを失念してた俺が悪いんだけど、グラス2杯くらいでもう気持ちよくなっちゃったん。

それでも眠気は不思議と湧いてこなくて、昼下がり、ハルちゃんと一緒にうんまい肉とワインをちびちび。ちょっと涼しめの風が時折吹き抜けていって、座椅子に凭れたハルちゃんは気持ちよさそうに目を細める。そっとそのすらりと白くて長い指先に触れ、隣同士で見つめ合って。いつもなら膝枕してもらうんだけど今はしない。ずっと見てたいんだ。昼下がり、自然光の下のハルちゃんはいつもと違った趣があって、伏せた睫毛がものすごく長く淑やかな影を落としてる。

ああ、綺麗だなあ。こうやって君を見ていられることが、俺の大好きな子ってことが何より嬉しいって思う。まだこんな早い時間だけど、すごいたくさん牛タンもワインも呑んじゃったけどでも、あとまだ味わってない、いつものお決まりのやつ。

伊達さん、  してもいいですか?

そうそう、そのお強請りが俺にとって、一番のご馳走なんよ。


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