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smashing! これもあれもいっこかし

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。

午前の部最後の患畜ネコちゃんは軽い鼻炎、わかるよ俺もシーズンはひどいんだ、佐久間がまるでヒトに対するようにそのネコちゃんと会話しているのを見て、飼い主さんらが笑っている。

待合室を軽く掃除、消毒、出入り口を施錠し、喜多村と佐久間は必要なデータ入力等を終え、そのまま二階の住居へ。昼食の準備をしようと冷蔵庫を開けた喜多村は小さな声を上げた。酒と調味料以外はほぼ空。どした千弦、佐久間は後ろから覗き込み、力なく答える。そういや日曜に卓たち来たから全部食っちゃったっけなあ。

とりあえず二人して外に出る。商店街行くと呑みたくなるけどここは我慢だな、鬼丸なに食べたい?降って沸いたプチデートの予感に喜多村が少し浮かれている。ついでにいろいろ買い込んでいこう、空腹が勝って今ひとつ反応の鈍い佐久間は、食材リストを確認するのに忙しい。

大きめのキャリーを引きずって商店街に。まずは腹ごしらえ。朝少し寝坊したせいでゼリー飲料しか摂ってなかった二人は、まずは目についた所に入ることにした。病院から一番近くにあって目に入るご飯屋、それはあの黒づくめでピアスピアスピアスの美形・岸志田七瀬の喫茶メケメケ(ご飯屋?)。

久しぶり院長。微かにTレックスの流れる店内は昼時なのに空いていて、少し髪が短くなったマスター岸志田がカウンターから声をかける。あ喜多村くんもいたんだ、相変わらずのそっけなさ。喜多村は全く動じず、爽やかに注文。サンドウィッチとあったかいプリンな。岸志田は手挽きのミルで挽いたばかりの豆をドリッパーに入れる。

これ院長スペシャル。佐久間は出されたコーヒーを口にして目を細める。空きっ腹にこれは美味しすぎるな、喜多村が絶賛する中、岸志田が運んできたのは注文の倍量はあるかと思われるサンドウィッチ(の山)。コンビーフとポテト、鴨の燻製とコールスロー、BLT。このくらいあったらお腹いっぱいになるよね。病院関係者の底無しの食欲を知る岸志田は、こうして遠慮ない量を繰り出してくる。

全然完食できるから大丈夫だ!喜多村は嬉しそうにサンドウィッチを頬張る。鴨の燻製がすごくいいね、佐久間が大量食いの合間にぽつぽつと話す。こうして自分らのために作ってもらったものは美味い。時々でも外食を挟むのはそんな感動と感謝を味わえるからだ。減ったコーヒーをさり気に注ぎ足し、岸志田は喜多村の目を盗み、佐久間をガン見。さりげなく、でもガン見。

院長ちょっと髪伸びすぎじゃないかなあと冷蔵庫空とか一体なにがあったんだろまさかこの変態かんごしがランコーパーティとか開催していろんな輩に振る舞ってそんで院長も振る舞っ…

ナナセマスター、全部口に出てる。佐久間に笑われて我に返った岸志田は、喜多村の足元の大型キャリーを見て、思い出したように携帯で電話をかけ始めた。これも美味かったな鬼丸、喜多村はほぼ完食したサンドウィッチを称賛。すると岸志田が急に、二人に小さな声で囁いた。

確認したら、昼からゲリラセール。この先の肉屋から八百屋の筋、4割引なるらしいよ。

よんわり。佐久間の目が見開かれ、温かい豆腐花をこぼしそうになった。商店街の人間しか知らないやつ、院長には特別に教えてあげる。って俺もいんだけどな。喜多村の苦笑を三日月の目で答えて、岸志田は楽しそうに別種類のコーヒーを淹れている。豆腐花と合うこれ飲んだ頃に行くといいよ。

大感謝だな!機密情報手に入れちゃった二人は、しっかり食べて飲んで、意気揚々と喫茶メケメケを出た。院長いっこ貸しね。一方的な貸しを仕立てて、岸志田は猫の微笑みで、その後ろ姿を見送った。



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