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smashing! あんたのしんじつはひとつ

大学付属動物病院獣医師・設楽泰司。週一で佐久間イヌネコ病院に出向している理学療法士・伊達雅宗は彼の先輩で恋人。伊達は佐久間の病院の経理担当である税理士・雲母春己とも恋人同士だ。

すぐ終わると思ってた家の用事、簡単なリフォームの手伝いが次の日までかかりそうで、実家に泊まりになった。夜は伊達さんと約束してて早く帰りたかったがそうもいかない。オレは早々に伊達さんに電話を入れて、状況を説明。

「すみません、思ったより壁ん中が傷んでて」
「全然いいよお、お前も気にしないの。それより兄ちゃん達と怪我ないようにね」

あっさり、そんな風に見えても、この人がけっこう楽しみにしてたのを知ってるから、心は痛む。大人が正直なことを言わないのは、相手も同じ気持ちなのを知ってるからなんだ。オレも楽しみにしてた。伊達さんと二人で夜の高速走ってそんでLのついたお高いホテルでクォリティの高いコスプレして雲母さんに画像を献上するという企画。笑った?今笑いました?こう見えてオレらこういうのには本気なんです。

まあホテルも凝ったお部屋も逃げやしないし、またすぐ計画立て直して出かけりゃいい、わかってはいてもちょっとだけ寂しい、そんな気持ちを持て余しながら、実家の飯たらふく食って狭い風呂入って、二階の自分の狭い部屋のベッドにビールとヨッちゃんいかと、タブレットを持ち込んで。

いきなり伊達さんにビデオ通話で掛けたら、珍しいねえ、風呂上がりなのか髪が湿っている。伊達さんの顔が見たくて、そう言ったら、フヘ、笑ってんのか泣いてんのかわかんない顔でもって笑う。オレの好きな顔。小さな画面で見るといつもと全然違って、なんだろ更に年齢不詳なるんだな。

何のフィルターも掛かってない画面には、つるんとした綺麗なマサムネお兄さんがチューハイ片手に、今日あったことなんかを話してる。オレに話してくれてるんだけど、画面の中だとなんだかそんな風には感じられない。この人年取らないな、全然関係ないことを考えたり。

設楽はさこう、画面に写ってるとコワモテよね。ケタケタ笑いながらディスッてくる意味とは。どこがコワモテなんですか、だってえ目と眉近くて愛想もないしねえ。成る程、伊達さんを凝視し過ぎて余裕のない表情ってことですね御意。そういう時は男前とか言ってください、伊達さんは少し考えて、とんでもないことを言った。

当たり前のこと言ったって面白くないじゃんね?

素でさらっと言ってのけるとか。そういうとこなんだ、オレが目が離せなくなるその心根、まさに真実はひとつ、この人の趣旨に合ってんのか合ってないのかは別として。その口から出た言葉は全て本当、そう信じてるから。オレが一方的にだけど。


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