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smashing! ふにふにをいただくオレら

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。そこで週1勤務をしている、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗と経理担当である税理士・雲母春己は付き合っている。そして伊達は後輩の設楽泰司とも恋人同士だ。


今日は伊達さんの平屋の近くで雲母さんと待ち合わせて、ペントハウスのほうに向かう。車検に出してるオレのハマーの代車がコンパクトで可愛いので、雲母さんが嬉しそうにしてる。助手席にサングラス姿の雲母さん。ついでにオレもサングラス装備。最新のUVカットのやつなんです、そう言って貸してくれたんだけど、当たり前にハイブランドのだな。それにしてもこの絵面、なんとなく対向車が避けてる気がする。

途中で色々買い出しも兼ねて、道の駅やらにも。伊達さんちからオレの家の近辺はハムやらパンやら、あれだな、職人さんが店を出しやすい環境なのかもしれない。水も空気もいいし、広くて静かで地代も良心的なんだろうな。あとはペントハウス近くの商店街、そこから少し離れたアーケード街にも寄ることに。駐車場からすぐのところにある和菓子屋。麩まんじゅうを使ったみたらしだんごがすごく美味い。伊達さんの大好物なので、オレたちはそこへ向かった。すると雲母さんの足が急に止まる。

「?雲母さん?」
「…あれ、伊達さんじゃないですか?」
「あほんとだ。伊達さ」
「(シーーーー)」

雲母さんが人差し指でオレの唇を塞ぐ。ビクワイエットなやつ。あれはおそらく僕らへのお土産ですよ、見なかったことにした方が楽しみが増えます。とか言ってる雲母さんの目がキラキラしている。こういう内緒的なの確かに面白い。伊達さんは和菓子屋の店先でお麩みたらしだんごを買って、そのまま徒歩で馴染みの商店街方面へ。あの人徒歩で来たんだな。ほら伊達さんが持ってるのはどう見ても二、三人分。僕たちもお家に帰りましょうか。電柱ていうか自販機周辺でこそこそ話すサングラス装備の180超え2名。怪しいの他に言葉が見つからない。

残りの買い物片付けて、可愛い代車で目と鼻の先の自宅マンションに。専用エレベーターを出て自宅のドアを開けると、おそらく先に戻っているはずの伊達さんの気配がない。おしっこじゃないですか?オレの言葉に吹き出しそうになりながらトイレを確認した雲母さんが首を横に振る。まだ寄るとこがあったのかもな。

部屋着に着替えた雲母さんに軽い食前酒(シェリー酒等だと思われがちですがカシスリキュールを炭酸で割るんです)を出し、オレは同じく着替えを終え夕食の仕込みを兼ねていったんキッチンに向かう。今日はみんな大好きオレの石焼ビビンバとサムギョプサル風の炒め物。簡単なのになかなか美味しいから喜んでくれる。

出来上がる少し前。玄関からたんだいまあ〜と伊達さんの声。おかえりなさい。雲母さんとオレが恭しく出迎える。オレ思わず二度見したのだけど、伊達さんの手には何もない。背負ってるバックパックかと思って荷物預かるふりして中を確認したけど何もない。???アレレ?オレらのお土産は?お麩みたらしだんごは?痺れを切らした雲母さん。

「伊達さんさっき、お麩みたらしのお店にいらっしゃいませんでした?」
「えーよく知ってんね!声掛けてよお」
「みたらしをお買い上げになったのでは?」
「ああ!あれね佐久間んとこに差し入れ」

佐久間さんのとこに差し入れだったんですかそうなんですか。や、全くかまわないていうかむしろありがとうございますお世話になってますし。でも、言いたい。あの店で伊達さんの姿見て、オレらのおクチはすっかり「お麩みたらしだんご」になっちゃってるんだから。

「…なんなん二人とも、おんなし顔!」

オレと雲母さんはほぼ同じ表情らしい。いわばチベットスナギツネ。当てが外れるっていうのはこういう感情なのね御意。そうだオレ夕飯持ってきますね。そのオレの肩をがしっと掴んだ雲母さんが実に男、いや漢らしく言い放った。

「大丈夫です設楽くん。ほら、ここにお麩みたらしだんごが!」

伊達さんの顎をクイした雲母さんの指先が、伊達さんの唇をフニフニ。アッーそこにあったかあ。夕ご飯いただいたら好きなだけ味わいましょうねンフフ。顔中好き放題されて困惑する伊達さん。流石に察したのか、あー今度はちゃんと二人のも買ってくるん。しょんぼり眉毛下げて。

いいんですオレらは伊達さんをいただければそれで。雲母さんと笑いながら、伊達さんに両サイドから抱きついてやった。




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