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smashing! おれのおれとおまえ

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。

背が高く姿勢の良い喜多村はゲーム好きでもあり、かなりのやり込み型。そのせいかどうしても腰に負担がかかるらしく、ゲームをしている間は軽い腰痛持ちになる。

「アアア…おにまるせんせいいたいです」
「気のせい気のせい。すぐラクなるからね」

リビングの真ん中、絨毯敷きの上にヨガマットやバスタオルを数枚。そこでうつ伏せになった喜多村が施術されるのは、佐久間の実家、僧侶たちの間で亜流で行われているタイのワットポースタイルマッサージ。テコの原理を利用し、ストレッチよろしく各所のエネルギーラインに沿って老廃物をリンパに流す…とか説明は長いが、とにかくイタキモチイ間に落とされる、というやつ。

「痛めたとこは触らないから大丈夫」

佐久間愛用の柑橘系オイルの香りが漂う中、静かな声が心地良く響く。イタキモチイが通り過ぎた後は、温かい血流がビッグウェーヴのように全身を巡る。佐久間が密着して行うこのマッサージは嬉しいし気持ちいいのだが、油断するとあっという間に落とされるやつで、目覚めたら翌朝、なんてのはザラだ。今日はどうしてもイチャコラに持ち込みたかった喜多村は、強烈な睡魔と戦い、なんとか踏みとどまったのだ。

「珍しいなあ千弦、寝ちゃうかと思ったのに」
「俺も時々は本気出すんだ」

何の。佐久間が吹き出しながら後片付けし洗濯室に向かう。ついでに風呂も済ましちゃうかな的独り言を言いながらふと浴室の前を見ると、今の今までリビングの床に沈んでいた喜多村が力なく転がっていた。急いで先回りしたらなんか全身にキタ。ほら言わんこっちゃない。佐久間は肩を貸してやり、キッチンのカウンターの椅子に喜多村を座らせる。

「今日は無理しないほうがいいと思うけどなあ」
「鬼丸はわかってない」
「?なにが?」

あんな密着してグネッてアヘッて(喜多村が)そんでもってギュー抱き合ったりしたらんなもん何やかんやがセットオンだろ。意外に面倒臭い喜多村の甘えモード。日頃すっきり漢らしいから尚のこと。だが佐久間は動じず、喜多村の肩をぽんと叩き、耳元に囁いた。

「千弦が動けないんなら、その、俺が動くから」

大丈夫。それだけ言って小走りに風呂場に消えた佐久間。喜多村は半ば白目を剥く勢いで後を追おうとしたが、全身ちょっと揉み疲れぽいのとあと、あれがああで。

カウンターの縁にマグナムの一部が引っかかって、我に帰って動けなかった。あほですか。


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