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smashing! きみのまえではどうしても

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。そこで週1勤務をしている、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗。彼は佐久間の病院の経理担当である税理士・雲母春己の恋人。

浴室中に漂うのはハチミツの甘い香り。今日はバスタブの中がキラッキラゴールドに輝いてて。ハルちゃんは少しほろ酔い気味。向かい合わせに座った俺の洗い髪をその長い指先が緩やかに梳く。ハルちゃんは目が悪いので、この距離でも俺のことがうすらぼんやりしか見えないらしい。恥ずかしい、とかそういう感情はそのせいか感じないんですよ。ハルちゃんがよくさらっと言ってるけど、いやそれ別に近眼あるあるじゃないよねえ?

お得意様から頂いたんです。生ハチミツ入りのこのバスオイルすごく肌にいいらしくて。ハルちゃんはその滑らかな肌を金色の湯に浸す。水を弾く、そんな言い方がおっさんの界隈でもよくあるけど、ハルちゃんの肌は弾くとかそういう次元じゃないの。溶け合って馴染んで輝くのよ。そんで毛穴なんてないのよ。

日常でファンデ使ったりとか最近じゃ男子もフツーだけどさ、ハルちゃん基本日焼け止めだけだから。シミなんて存在皆無だから絹豆腐だから。あれ何言ってんのか分かんなくなってきたん。それは俺もちょっと酒入ってるからなのよね。

ハルちゃんの腕が俺を抱き寄せて、目元に、鼻先に、そして唇に。啄むような優しいキスが雨のように降り注ぐ。体ごと熱に浮かされるようなそんな体温の上がり方じゃなくて、じわじわと侵食されてく真奥の熱。ハルちゃんの中の熱が不意に蘇って、俺のが制御できなくなって、それがハルちゃんには全部手に取るように分かってしまっている。ああこれは三蔵法師とその弟子のやつ。一生懸命絆されたふりしてても、設楽とさんざやりまくって帰ってきても、その都度ハルちゃんは言うんだ。あなたはどんどん素敵になりますね、って。

ハルちゃんが言う素敵、と、俺が思う素敵。果たして同じかどうかは定かじゃないけれど。ハルちゃんに触れられてあさましく揺れる腰がどうしても。


紳士的とかそういうの、端折ってしまう感じになんのよね。

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