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smashing! きんだんはあまくやさしく

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。

二人は夕診までの数時間、家事や作業なんかをあらかた片し、あとはゆっくり過ごすことが多い。今日は朝から小雨がぱらつき、少しだけ肌寒いリビングでは、昼食を終えたテーブルの側、何故か佐久間の膝の上には、喜多村が椅子に腰掛けるように座っている。

「…思ってたほど癒されない」
「いつもと逆ってのもあるけど、重…」

鬼丸が痩せてるから硬いんだ。よくわからないディスられ方をしても佐久間は動じない。だって男子の膝なんてものは硬いって相場が決まってるじゃないか。膝枕ならまだしも、直に座ったって太もものクッション性なんてゼロに近いんだ。

「なあ千弦、俺コーヒー淹れたいんだけどなあ」
「待ってもう少し。そしたら何か変わるかもしれない!」
「(何も変わんないしていうか変わるて何がよ)」

じゃ俺淹れてくる。喜多村は渋々立ち上がるとキッチンに向かった。佐久間はもう少しで痺れるとこだった足を摩る。喜多村の筋肉質なおシリはしっかりしてて弾力があって実にイイものだけど、膝に乗っけちゃったらそれはそれで江戸時代の拷問的になるのな。ふわりとコーヒーが香る。喜多村の淹れてくれるそれは、不思議と苦味が少なく柔らかな風味がある。

「お待たせだ。特別にチョコレートケーキも奮発したぞ!」
「え!そんなのあったんだ?」
「昨日な。ハルちゃんからの差し入れが冷蔵庫にあった」

さ鬼丸、交代だ。喜多村がぽんぽんと自分の膝を叩き佐久間を手招く。これは断れないやつだな。喜多村の膝に腰掛けた佐久間を後ろから緩く抱き締め、小さく切ったチョコレートケーキを佐久間の口元に運ぶ。ぱっと見、なんか二人羽織になってる。

「…そこ顎。イタタそこ鼻!俺自分で食べる」
「…なんでこんな単純なこと思いつかなかったんだろう」
「へ?」

こうすればいいんだ。佐久間をひょいと持ち上げ、向かい合わせになるよう体の向きを変えた。これでバッチリだ!満足げな喜多村。唖然とする佐久間の二の句は喜多村に塞がれる。チョコレートケーキの味を口内で感じながら、じたばたと暴れる両手はあっさりと喜多村のそれで拘束された。

「…大丈夫、しないから。でも鬼丸…」
「ちづ…」
「どうにも、ここだけ収まらないんだ」


抗えない熱を押し付けられながら、どうにかこうにか佐久間は、どうにかなりそうな方法を一生懸命考えを巡らせる。自由の効かない身体を持て余しながら。


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