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smashing! あのコーガンのゆくえとは

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。そこで週1勤務をしている、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗は経理担当である税理士・雲母春己と付き合っていて、後輩の設楽泰司とも恋人同士だ。


「なー設楽あ俺今日マグロ食べたい気分なんよー」
「ちょっとマグロは無理そうなんで、他ので巻き物をつくります」
「えなんの!巻き物出るの!」
「まあ、ちくわでですが」

毎度設楽の実家。毎月の「お手伝い」作業を終え、これから雲母の待つ家(今日は伊達の家のほう)に戻ろうとした二人は、車がいきなり動かない。てかあれだ、バッテリーだな。しかも雨混じりの雪がみぞれになりつつある。寒!無理!雲母にメールを入れ考え込む二人。まあ今夜は泊まり決定ってことで。

「両親が、今日は長男の泰壱んとこ泊まるからって」
「あー、大丈夫なん?タイチくんの怪我」
「まあ大工ですし、怪我っていう名の有休消化みたいなんで」

土間のある台所は伊達も気に入っていて、寒いっちゃあ寒いが風通しよく意外に清潔なのもいい。設楽は冷蔵庫からご飯(酢飯?)とちくわや青紫蘇を取り出した。

「俺手伝ってもい?」
「あ、伊達さんはお得意の厚焼き卵、お願いします」
「そこはお手伝いのレベルじゃないんね」

ちくわと青紫蘇を細切り、そこへ焼鮭フレークをのせ、設楽は器用に簀巻きを扱う。マグロじゃないんですが、けっこうイケます。そう言って切ったちくわ海苔巻きを伊達の口に放り込む。

「ああ、旨いやあ!設楽ん家の味なんね」
「合格ですか、母ちゃんも喜びます」

けっこうな量の巻き物と厚焼き卵に今日はビールで。居間のコタツでぬくぬくと過ごす二人。あれだな、若い奴は大抵、好きなやつとコタツ入ってるとちんkから何から喜んじゃうんだな。設楽に緩く抱き込まれながら伊達はぼんやりと思った。隣同士で座ってテレビ見てたはずなのに。あかん本格的になる前に撤収だ撤収。見つかって怒られる前に色々片付けてこ。前屈みで。

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「なんか喉渇いたなあ…」
「この部屋暖かいですからね。何か持ってきましょうか」

一通りの流れを軽く終え、設楽はベッドを出て階下に向かった。オレの部屋のベッドはシングルだから狭いんだよな。ぶつくさ言いながらも台所に行くと、末弟の泰良がちょうどバイトから帰ってきたところだった。

「なにタイラ、今日早上がり?」
「雪でお客さんこないから、帰っていいってさ」
「お前もなんか呑む?」

あタイラくんじゃんおっかえりい。いつのまにか二階から降りてきていた伊達。彼シャツとはいかないが、兄のパーカーが普通に似合う伊達と兄を交互に見て泰良はため息をついた。

「いいなあその空気感。俺もコイビト欲しー」
「…ダメですよ伊達さん。丼禁止なんでオレ」
「俺だって節操はあんの!だいたいね、俺は25才以下とアレしちゃうと…」

コーガンがバクハツします。

設楽ブラザースのきょとんとした顔が一変、意外すぎる答えに大笑いし悶絶。それは大変だわ伊達さん、俺あきらめます。素直に負けを認めた泰良は、食料庫の奥から日本酒「十四代」を取り出した。

「バッ…おまそれ父ちゃんの…」
「こないだ麻雀で勝ったらくれた」
「すげえな設楽家!ねねね俺も混ぜてん」
「もちろん!」

俺用意しますね。泰良はちょっと楽しそうに「コーガンバクハツ」をオリジナルソングに仕立て、なにやら肴を作り始めた。いそいそと食器棚にグラスを取りに行く伊達の後ろから、設楽が耳元に呟く。

「たしかオレ、25才以下だったんですけど」
「?そーだっけ?忘れちゃったん」

あんたのコーガンどこがバクハツしたんですかおい。久々の設楽の詰め寄り顔に、逆に頬を擦り寄せてやりながら、伊達は「十四代」の瓶を嬉しそうに抱えたのだった。


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