見出し画像

佐久間イヌネコ病院 luv.80 始まらない初め


初日の出を見に行きませんか? 

きっかけは雲母からの提案だった。昨日から年末年始の休暇に入った面々。いつもの伊達の平屋で過ごす年の瀬、設楽が検索した「ちょっといい宿」、急遽キャンセルがあった上にナントカクーポンの適用で宿泊料3分の1キャンペーン中。これは行くしか。力強い設楽の言葉に、伊達と雲母は大喜び。なに着てこうかあハルちゃあああん♡あなたなら何でもお似合いですよ伊達さあああん♡。家庭内バカップルの圧に翻弄されながら、設楽は三人分の着替え等をキャリーに用意し始める。

大晦日。設楽のハマーで三人が訪れたのは、都心から1時間ほどの先にある温泉郷。風光明媚なその土地は美しい山間から垣間見ることのできる初日の出が人気らしく、けっこうな賑わいだ。ホテルと旅館が一体化されたような「ちょっといい宿」に到着、離れの特別室に通された三人は、まんま京都の枯山水的な庭園を気に入り、早速縁側で並んでウェルカム茶をご馳走になる。

「…ここけっこう眺めがいいねえ、これあれでしょ?庭石の置き方がさ、実際の数より少なく見えるとかの」
「伊達さんもそう感じられましたか!奥に向かって高くなる傾斜はこれにより石庭のパースペクティヴが強調され奥行き感が生まれるのですがこのような手法はルネサンス期の教会や庭園などでですねこう」
「雲母さん詳しいですね」

雲母のノンブレス解説を聞きながら、部屋に運ばれたナントカ懐石膳を楽しむことに。プラス、カニとウニと肉を追加オーダー。てんこ盛り膳の眺めったら最高じゃないですか。雲母が正確にカニを仕分け、設楽は焼き石に乗せた肉の見張り。伊達はのんびりと日本酒を味わう。設楽オーダーの東光 雪女神。なんとなく雲母を彷彿とさせるネーミングに、ちょっとだけ伊達の目尻が下がる。

「そういえばオレ、初日の出見に来たの初めてで」
「俺とハルちはねえ2回?3回目?だっけ?」
「…それがですね、僕と伊達さんは…」

何故か一度も日の出に間に合ったことがないんです。

仕方ないんよお二年参りみたいなって浮かれて騒いで起きたらお昼なんよ、ノンブレス伊達。設楽は目の前の肉を食らいつつ考えていた。最近三人ともノンブレス傾向が甚だしいな。

「じゃあ今年は早起きして、露天入って初日の出待ちで。それなら待ってればいいだろうし」
「露天風呂で日の出を堪能できるなんて、とても贅沢ですね」
「いいねえいいねえ、そんで熱燗も持ち込んじゃお♡」

年末の賑やかな番組を流しながら、朝風呂で初日の出見れば大丈夫、という確定ぽい目標設定に、三人はすっかり安心し切って酒宴を続けるのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

まず結論から言えば、元日、三人が目覚めたのは日も高く登ってしまった午前10時。そして露天風呂でなく和室に設置されたベッドの上。くっちゃくちゃで折り重なるように寝てたっていうね。またやっちゃったなあ、伊達が大笑いするなか、仕掛けておいたカメラで初日の出が撮れてるはずです!ドヤる雲母。一方、設楽は妙にすっきりしない感じ。なんか全体的に。体力には自信がある方というのに。

「伊達さん、オレ何かしたんですかね、変に疲れてて…」
「…覚えてないんよねお前」
「ンフ。とても雄々しくて素敵でしたよ?」

丁度届いたルームサービス、軽めの朝ごはんにと野菜中心のクラブハウスサンド、ポーチドエッグ、宿自慢の国産紅茶を堪能しつつ、雲母がそっと差し出したタブレットで昨晩の様子を確認。

「…これは…」
「ね設楽すごいよねえこれ♡」
「僕と伊達さんはとても楽しめましたよ♡」

何のことはない、ここに来る前に夜勤続きだった設楽が、酒宴の最中にいきなり寝落ちた。すごくビックリした二人。伊達は設楽の様子を確認、そして安堵(なんともなかったからね)このまま寝かせてやろうと設楽の体を整えようとした伊達の手が止まり、爆笑。覗き込んだ雲母はちょっと赤面しンフ顔。持ち込んだ部屋着のスウェットをイキッた設楽のシダラがテントさながらに持ち上げている。そらもうフルヴォッキですよ若さて疲労て怖い。

伊達と雲母は設楽のシダラをつついたり握ったりひっぱたりしながら堪能、ダンセイキの不可思議あれやこれやを雲母がノンブレスで解説、熱く意見交換しながら伊達もいつしか酩酊、結局3人とも寝落ちてしまい、元旦の朝ていうか10時を迎えたと。

「起こしてくれればよかったのに」
「だってえ気持ちよさそうに寝てたから」
「睡眠を妨げるのは健康に良くないですからね」

結局設楽のシダラは解放されることなくそのまま鎮まり、伊達と雲母も昨晩は何も致さず、ナニコレ健康的にも程がないか?みたいなオチに収まりそうな感じを、設楽は自ら打ち破った。

「じゃあ今から、伊達さんと雲母さん、オレの前で ってください」
【【…へ…ぇ…?】】

末っ子の言うことは絶対。いつのまにかおかしなルールがはびこったなオイ。伊達は渋々、でもちょっと倒錯的な期待を感じつつ、雲母の側に寄ると、美しい双眸を煌めかせ、雲母は伊達に向かって招くようにゆっくりと手を広げた。



(三竦み)
ーーーーーーーーーーーーーー
佐久間イヌネコ病院
明けましておめでとうございます

昨年はお世話になりました!
ウチも伊達さんとこも結城の卓んとこも
皆恙無く楽しい一年でした
今年も兄さんからお年玉が
ちゃんと全員分現金封筒で届いてます

(院長)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?