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smashing! うみのそばにはパワースポット

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。

近隣の商店街の外れに位置する銭湯ウミノ湯。店主は渋い鯉口シャツにステテコパンツが標準装備、長身痩躯の松田系の美形。羽海野真弓。そして地球の真ん中の線辺りから、最近十年ぶりに帰国したリウ先生こと、羽海野の長い付き合いの年上の恋人・九十九龍一。

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数ヶ月に一度、ボイラー設備やなんかの点検のためにウミノ湯は休業する。今日は朝から業者が来てくれて、あちこち見て周って。数ヶ所手直しをして水曜には銭湯を開けられそうだ。

もうすぐ相撲が始まる、そう言って九十九は毎日ご機嫌だ。夏場所の前は街にお相撲さんが歩いていて、鬢付け油の香りが漂っている、自分の地元の風物詩を佐久間が教えてくれたっけ。九十九は知り合いから貰った番付表を居間に貼って、嬉しそうに眺めている。

今日は俺が飯を作るよ。九十九はつい手を貸そうとしてしまう羽海野をやんわり制して、昼過ぎから台所に立っている。俺ぁ料理あんまやんないからねえ。日頃からの口癖とは裏腹に、なかなかに手際がいい。この間、佐久間と喜多村から食べきれないから、と山のように夏野菜を貰った。ここにもよく来てくれる伊達くんの家で獲れたやつ。キュウリとズッキーニが異様にデカいな。ツッコむのも不本意ではあるが。

ナスとキュウリの乱切りを薄口で煮浸しに。ちょっと辛味のある獅子唐とウチにあった茗荷、ナスを使って南蛮漬け。そして鶏肉の薄切りを揚げて、ネギとラー油とごま油とポン酢のソースをぶっかける。よだれ鶏風なんだ、どこで覚えたんだろうか。ちょっと居酒屋風、でも限りなく家庭の味ぽい。

かあちゃんのやつ、こないだテレビ電話で教えてもらったの。九十九のお母さんはまだまだ健在で、フルタイムで働く企業戦士だ。ウミノ湯に遊びに来てくれた時はちょうど羽海野が不在で、とても残念がっていたという。さあできた!九十九は居間に料理を並べ始める。選んだ酒は珍しく、シュナン・ブランが主体の白ワイン。安価だがとても香りが華やかで辛口、羽海野も気に入っている。

テレビをつけるのかと思ったら、九十九はブルーレイをセッティング。何か借りてきたのか?てくてくハム次郎!ああ、日本のアニメが大好物だったこのおっちゃん。この肴この酒でキッズアニメ。だが羽海野は怯まない。ホラーやスプラッタじゃなかったら俺は何でもいい、なスタンスだからだ。

炭水化物を控えてるわけではないが、自然と夕食には米が少なくなった。酒を飲むと白米はシメになってしまうからだろう。長っ尻で酒を嗜む二人にはちょうどいい。俺はさこのロコちゃんの彼氏が気に食わないんだよね。アニメの設定にも口挟む九十九は、これでも大真面目である。心配性なんだなリウは。羽海野はその真意を慮って、九十九のグラスにワインを注ぐ。

作者の方の鼻歌が元になってるという主題歌を、九十九が時折口ずさむ。そのナリでその歌歌うんだな。羽海野はどうにも可笑しくて吹き出しそうになりながら、つまみが足らない、そう言うと、九十九が心底嬉しそうに笑いながら、ちょっと待ってろ真弓。そして台所に行く。

きっと次に出てくるのはジャーマンポテトか、フライドポテト。ピカタかもしれないな。羽海野は好物はジャガイモだから、切らしたことはない。思った通り九十九が野菜の貯蔵スペースに顔を突っ込んでいる。ああ、そんなとこが大好きだったりするんだ。でも敢えて言わないようにしている。玉ねぎの皮がひとひら、九十九の頭のてっぺんにひらひらしていても。


結局あんたがそこにいるだけで、全て自分の力に、癒しに成りえるんだなんて。




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